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エルダの儀

17

「大気の流れが変わった……?」
いびつな丸形の月が雲で隠れた闇の中、男がつぶやいた。
まだ若い男のようだが、この男には外見の年齢など意味もない。
「あの男がドリュアスのガイアと契約したな。精霊使いどもめ…」

敵ながら見事な奇襲だ。策を弄(ろう)することも出来なかった。
男は、自身の失敗に大きく息を吐き出した。

「まぁ、いい。一時の勝利などくれてやろう。200年前もそうだった」

再びあらわれた月をみながら、200年前に思いを馳せる。
200年前のあの女……
マガーの精霊使いであったのは確かだが、とうとう何者であるかまでは、わからなかった。
それだけが気がかりだ。

精霊使いどもは徹底的に隠してきた。
数百年に1度誕生する、黒き創造神オピーオンをも一瞬で葬り去る力を持つ子を―――

(そやつがオピーオン神の復活の時に、いないことが重要……)
存在していたら、我が神は一瞬で消滅させられてしまう。

逆に精霊使いどもは、復活の時にいることを望み、オピーオン神を永遠に消滅させたい。

数千年に及ぶ駆け引きである。

それにしても、200万年破壊と再生を繰り返す世界で、面白い種族が生まれたものだ。
あきらかに今までのヒトとは違う、神にもっとも近く、それでいて不完全で愚か。
おかげで我らは闇に潜んだまま、ヒトを利用し操り、オピーオン神へ供物を捧げることができている。

だが神と交わったヒトはその不完全さゆえ、白の創造神ガイアすら創造できなかった、オピーオン神を消滅させる力をも奇跡的に誕生させた。

(その力さえ封じれば…)

我らの勝利は揺るぎない。こんなチャンスは二度とない。
200年前、あの女を破滅させた優秀な駒の姿が脳裏に浮かぶ。
「……しばらくは高見の見物といくか」

ふたたび月が雲に隠れた。

-Fin【斬の剣へ続く】-

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