そっと資料室を出て、カルナとシーヴァー、そしてシーヴァーの腕の中で、 まだスヤスヤと眠っているメロは、静かに廊下を歩いていく。
《光の精霊達 私の手の平限定 光をともせ》
手の平を向けて動かせば、向けた方向へ向かって光が届く。
「これはランタンや松明より便利だな。商品化したら売れそうだ。手の平の代わりに光を通す何かにして。そうだ筒状ならどうだろう?」
などどシーヴァーは言い出す。
商人だった頃のクセは抜けきれないらしい。
左右にわかれた廊下にきて、
「どっちだったかしら」
「【豊穣の間】だったな。だったら、こっちだ」
まよわずシーヴァーは左を指す。
「覚えているの?」
「ああ、道を覚えるのは得意でね。エルダ大神殿の見取り図は全部頭の中に入っている」
迷わずスタスタと歩いていくシーヴァーに、カルナはチラチラと彼を確認しながらついてゆく。目を離したらはぐれそうであった。
「手を繋ぐか?」
「お願い。助かるわ」
手にからめてきた繋ぎ方に、カルナは「?」となり
「かわった繋ぎ方ね」
「恋人繋ぎさ。相思相愛じゃなければ、できない手の繋ぎ方だ」
「知らなかったわ。ドリュアスには、こんな素敵な手の繋ぎ方があるのね」
「いやそれなんだが、ドリュアスでも貴族社会にはないんだよ。俺も皇家に戻って来てから知ったがね。平民は経済的な理由で昔から一夫一妻だし、今じゃ家同士の結婚もしない。だからかな?男女の付き合いもあっぴろげで、貴族とは全然違う。よくデートしているよ」
「デートって?」
「休日に恋人や夫婦で街で食事を楽しんだり買い物したり芝居を見たり、絶景を楽しんだりすることさ」
「まぁ!やってみたいわ!」
きっと楽しい―――目をキラキラさせたカルナに、
「いいとも。帝都は俺の庭だ。楽しみにしていてくれ」
目的地は神界というのに緊張感はゼロ。まるでピクニックに行くような会話である。
シーヴァーの足がぴたっと止まった。
「ここじゃないか」
カルナは光が灯っている右の手の平を扉に向けて動かし、確認する。
「ええ、そうここよ」
「メロを起こそう」
眠っているメロの身体を少し揺らして起こした。
気持ち良く眠っているところを邪魔されて、ぐずるメロに
「メロ、ドリュアスのガイアさまに会わなくていいの?」
ぱっと起きた。
『会う!』
「開き方を知っている?」
知ってる!と、メロが光を当てると音も立てず扉は開き、勢いよく中に入っていく。
壁いっぱいの古代文字。恵みの間とは、また違った……
『ここよ、光の姫様。開けて』
「ここは、私なのね」
しかし押してもビクともしない。しばらく考えて、あ、光の扉を呼び出すのと同じかもと気づき、
《開け 光の扉》
扉が内側に向かって静かに開いた。
「!!!」
まぶしすぎてシーヴァーは目を細めた。
光あふれる、真っ白な世界が広がっている。
神界である。
メロが、勢いよく、そして嬉しそうに一番に入っていく。
「ははは。助かるな。俺だけでは、とても入る勇気がない」
そのまえに変装ときましょうとカルナは姿替えの術を解除し、神界へと足を踏み入れた。
「あのとおりメロは勝手に先へいってしまうし、俺ひとりでは不安でしょうがなかった」
「ふふふ、さっきと逆ね。お互い様よ」
いったあと、
「手を繋ぐ?」
混ぜっ返せば、
「ああ、ぜひ」
『シー あけて。この向こうに ガイア様 いる!』
メロはシーヴァーのことを、シーと呼ぶことにしたらしい。
「この扉は俺か」
押しても開かない。特別な扉の開け方…
いや、知らん。そんなの。
行き詰まってしまったシーヴァーに、
「公式行事の時の扉はどうやって開けるの?」
「自分では開けないよ『よし。いいぞ。開け』っていうだけ……」
扉が静かに開き、カルナとシーヴァーは顔を見合わせた。
「それだったみたいね」
カルナは笑い、
「わたしは、ここで待っているわ。保護者つきで面会する年齢でもないでしょうから」
「だな」
行ってくるよ―――シーヴァーは中へと入っていった。