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フリッカの微笑み

10

翌日、ボーッとした頭のまま、リノアは出勤した。
スコールは帰ってこなかった…・
そのことだけが、頭の中をぐるぐる回っていた。
午前中どんな風に過ごしたのか覚えていない。お昼を告げる鐘が鳴る。
好奇心をそそる噂とはすぐに広まるものらしい。昼にはスコールとマドリーナがホテルへ入っていったことが省内の話題になっていた。
「やっぱり、秘書は得ねぇ…」
「国務大臣も大喜びじゃないの?あの二人が結婚したら、めでたし、めでたしなんだからさ」
「なんでマドリーナさんがあんな男選ぶんだよ。そりゃ、顔だって出世だって頭だっていいかもしんないけどさ。性格悪いよ、あの男。マドリーナさんが不幸にならないか心配だよ」
「…・性格以外は、お前にないものを全部持っているってことだよな…トータルで見りゃ、お前を選ぶよりましだったんじゃないの」
数々の噂に耐え切れず、リノアは、食堂を抜け出した。思わずエレベータに乗り、最上階のボタンを押す。スコールに会いたかった。
昨日来たばかりの最上階についた。
「あら、あなた…昨日の…・また来たの?」
昨日と同じ受付の人がリノアをじろり、と見る。
「…少将にあわせて…」
受け付けの女性はうんざり、した顔をする。
「いいかげんにして頂戴…いい?ここは職場よ。遊びじゃないのよ。私達は国のために働いている職員よ。あなた、プロだという自覚があるの?あなたみたいな人間がいるから、真剣に働いている女性が迷惑するのよ。わかったら、自分の部署に戻って自分の役目を果たしなさい。最後の忠告よ」
正論である。だが、この時のリノアには残酷な言葉だった。さすがに言い過ぎたと思ったのか女性が付け加える。
「それに…今、閣下はいないわ。わかった?」
「ああ、そうでした…」
忘れていた。前に出張だって言っていたっけ?いつも信じていたから、そのまま行こうが気にもしなかったけど…馬鹿みたいだ。やっぱり自分はどんなに頑張ってもスコールに追いつけない…。
リノアは、頷いた。何度も頷いたのは、泣かないようにするためである。
「わかりました。ありがとうございます。戻ります」
帰り際、思い出したように、リノアはポケットからカードを取り出す。
「それ、落し物です。閣下が帰ったら、お返しておいて下さい」
リノアは、エレベータに乗った。扉が閉じる頃、受付の女性は不信そうにカードを眺め、驚く。IDカードである。通常少将への面会者が持つものだ。
「いったい、どなたが落としたのかしら…こんな大事なもの落とすなんて…」
差し出した者が持ち主だと気づくことはついに出来なかった。

スコールがバラム軍施設の視察から帰ってきたのは、3日後の夕方だった。既に終業時間を過ぎており、サービス残業をしている職員以外いない時刻だ。執務室にはいり、溜まっていた決済書類を片付けなければならなかった。
マドリーナが入室してくる。
「お疲れ様です、閣下。こちらから、お願いいたします…」
スコールは書類を受け取り、目を通し始める。
「それと…落し物ですわ。3日前職員が拾って受付に提出したものです。面会資格者の方をすべて調べましたが、どなたも落としていないそうです。登録されていないID番号でした」
スコールはカードを受け取り番号を確認した。
「…・落とした…?誰が持ってきたんだ?」
「さぁ?ですが、受付のティアの話では、この間、閣下に面会を求めてきた女子職員達の中のひとり、と聞いておりますが…」
「部署はわかるか?」
「はい、それは…資料室の職員4人でしたわ」
スコールは、机の上の受話器を取り上げ、内線電話をかける。受付だ。
「ティアか?落としたIDカードを持ってきたのはどんな女性だったのだ……そうか…わかった…ありがとう…」
スコールは受話器を置く。
持ってきたのが、リノアであることは間違いない。IDカードもリノアにやったものだ。わからないのは、なぜ、わざわざ受付に返したのかだ。
スコールは電波障害がなくなったおかげで生み出されたものの一つ、携帯電話を取り出し、リノアの番号を押す。
ピーッ。
と、圏外を告げるアナウンスが流れて来た。
「バラムにいない…?冗談じゃないぞ」
マドリーナは不信げに見守る。
「マドリーナ。資料室の4人が来た、と言ったな?なんの為に来たんだ?」
マドリーナは質問の意味を理解出来ないまま答える。
「閣下に面会を求めてきたのです。スパイがどうのこうの、と言っていましたわ」
「スパイ?」
スコールは聞き違いかと思った。

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文責:楠 尚巳