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フリッカの微笑み

7

「おはようございます〜!」
休み明け、リノアはいつものように勢いよく資料室の扉を開けた。
とたん周囲の空気ががらり、と変わる。
(…なんだろ…?)
不思議に思いつつ、席について、隣のケリーに挨拶する。
「あの〜なにかあったんですか?」
「い〜え。なんでもないわよ」
ケリーはよそよそしく答えた。かかわりたくないと態度で言っている。
「そうですか…」
パソコンの電源を入れ、これから仕事しようとした時である。
「あ、いいわ、リノアさん。それは私がやるから」
とケリーが取り上げた。仕事を押し付けられこそすれ、やってくれるのは、かつてなかったことだ。
(ど、どうしたんだろ…?)
首をひねりつつ、リノアは席に座った。
昼休みを迎え、リノアが席を立つと、女3人は固まった。
「ねぇ、どうする?だけど、本当なのリールー」
ケリーが確認する。
「ほんと、ほんと。この目で確認したんだから。そりゃ、もう男の言いなりで、情報流していたのよ。その男というのが、そりゃ悪党顔でねぇ、どう見たって、スパイよ」
リールーは顔を見たわけではない。想像を膨らまして見たように言ったのだ。
「どうしたの?サリサ。なに考えているの」
ケーリーはにやにや笑っているサリサを不思議そうに眺める。
「チャンスよ!」
二人は顔を見合わせた。
「わからないの!トップの連中に…レオンハート少将に近づくチャンスだと言ったのよ。この情報を持っていけば必ず、興味を示すわ。会ってくれるに違いない。そうは思わない?」
ケリーは得心がいった。
「あ、なーる」
「確かそうよね・スパイをとっ捕まえていけば感謝してくれるわよ。資料室ともおさらば。好きな部署に配属させてくれるかも」
リールーが意気込む。
「でも証拠がないのに信じるかなぁ…」
サリサがケリーの消極的な意見を鼻であしらった。
「あの子を締め上げて吐かすのよ。証拠をテープにとるの。男のほうは私達じゃ無理だけど、あの子はなんとかなるでしょ」
魔女をなんとかするなんてとんでもないことだ。サリサはむろん知らないことだが。
三人は密かに打ち合わせをした。

定時になって、主任が真っ先に帰宅する。男性職員も帰宅し、資料室には女4人だけとなった。
「リノアさん。ちょっとこっちへきて」
声をかけられ、リノアはついていく。依頼のことだと思ったのだが、そうではなかった。
資料室の片隅で3人に囲まれてしまった。
「ねぇ、リノアさん。あなた先週、ここで男と会っていたんですってね。深夜に」
リノアは顔を上げる。
「隠しても無駄よ。私がこの目でちゃーんと見ていたんですからね」
どこから見ていたんだろう、スコールと思いっきりイチャイチャしちゃったよ、とリノアは顔を赤くした。
「見られちゃってたんですか…」
リノアはさらに顔を赤くする。
「なに顔を赤くしているのよ?あなた男に情報を流していたって言うけど本当なの?」
サリサは、厳しく尋問する。吐かせなくてはならない、という意気込みに満ちていたのだが、
「情報…?ああ、確かに教えました」
リノアが、あっさり答えたため3人とも拍子抜けしてしまった。
「こ、これからも教える約束したというけど、本当なの?」
気を取り直してケリーが聞く。
「はい。約束しましたけど?」
それが、なにか?とリノアは逆に尋ねてくる。
「ちょっと、あなた!自分がスパイしてることわかっているの!」
「はぁ?スパイ…これってスパイっていうんですか…?」
リノアはきょとん、とする。
3人とも顔を見合わせる。リノアが予想を裏切る反応ばかりするからだ。告発されて顔を青くするかと思ったのに。
「ねぇ…これでいいの?なんか違わない?」
「と、とにかく録音したわね。証拠は掴んだのよ。少将のところへ行くわよ」
「今から?終業時間過ぎてるわよ」
サリサの言葉に二人は驚く。
「馬鹿ね、過ぎているからよ。リノアさん、付き合ってもらうわよ」
「はぁ…」
またまた間の抜けた返事をするリノアだった。訳がわからないのだ。少将ってことはスコールのことなのだろうが、
(教えちゃいけなかったのかなぁ…スコールの責任問題になるの?)
と、初めて不安になった。
その表情を見て、3人は、初めてリノアが、まともな反応を返したと思った。自信を取り戻す。
「やっぱり、そうだったのよ。ほら、見なさい。行くわよ!」

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文責:楠 尚巳