リノアのもとにそれが届いたのは、もうじき25回目の春を迎えようしていた季節だった。
「やった!」
リノアは嬉しさいっぱいにリビング中を飛び跳ねる。
スコールがあまりの騒々しさに耐えかねて、顔を出す。リノアの狂喜ぶりをしばらく呆然と眺め、
「なにをやっているんだ…朝っぱらから…」
ようやく声をかける。
「あっ!スコール!!」
シャワーを浴びたばかりの、濡れ髪でバスロープ姿の恋人の手をリノアは無邪気に引っ張り、ソファーに座らせた。
「ね、見て、見て!」
スコールは、言われるまま目の前に差し出されたメールを開く。内容を知ったスコールの顔に笑みが広がる。
「今日だったのか…おめでとう」
リノアは何度も頷く。
「スコールのおかげだよ。ありがとね、勉強に付き合ってくれて」
「そんなことはない。お前が、がんばったんだ」
リノアはスコールの手からメールを奪い、スコールの膝に頭を乗せる形で、ごろん、とあお向けに寝る。
「おい…」
スコールの抗議を無視して、自分だけの特等席で紙切れを眺める。
バラム2級国家公務員試験合格通知。バラムには1級と2級の国家公務員試験がある。1級は高級官僚と呼ばれる、ごく一握りのエリートが通る狭き門。2級は実際に国の機関を動かす大多数の職員の通る門だ。受験資格は、どちらも大卒であることが条件であった。ちなみにリノアは今春大学を卒業することになっている。
魔女の力をコントロール出来るようになった時、リノアにはこれからのことを考える余裕が出てきた。一生スコールに守られて暮らす人生も選択できたのだが、
「わたしだって、なにかしたい…」
と思ったのだ。しかし、ろくにハイスクールにも通っていない身では、何をするにも心もとない。だから、大学入学資格をとって、大学へ行ったのだ。ここまで来るのにずいぶん回り道してしまった。それだけに嬉しかった。
「…出来るならスコールを助けるお仕事が出来たらいいんだけど…国防省に行けるかな…?」
スコールは現在、バラム国防省のナンバー3の地位にある。
20歳を迎え、SeeDの任期が終わった時、教官としてガーデンにとどまるつもりだったのだが、これはバラム国が許さなかった。
バラムは長い間平穏が続いており軍隊を必要とする機会などほとんどないのだが、先の大戦で不安を覚えたのか、他国に取られ、敵にまわす可能性を恐れたのか、たぶん両方だろうが、バラムとガーデンの今までの関係をちらつかせ、かなり強引に迫ったのだ。
「…難しいだろうな。専門職ならともかく、お前は、事務職だろうし」
スコールはリノアの額に手をやり、髪の毛を撫でる。
「うん。そだね、どこでもいいや。自分がやりたくて選んだことだもん」
スコールの力になれたらいいと思う気持ちは本当だが、それだけでこの仕事を選んだわけではなかった。リノアは物心つく前から国家単位でものを見る環境におかれていた。考えた末、やはり国の仕事がしたい、と思ったのだ。
「よーし。がんばるぞ!!」
こうしてリノアの「お役人」生活が幕を開ける。
研修後、リノアが配属された先は「国防省」だった。リノアが純粋に驚き、喜んだのは確かだが、
(本当に…こいつとは、くされ縁なんだな…)
とスコールが感想を漏らしたかどうかは定かではない……。