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フリッカの微笑み

2

バラム国防省資料室。
過去の膨大な資料や文書を管理保管している。ここがリノアの職場だった。職員はリノアを含め6人。
他の部署から切り離されている部署で、多忙なわりには評価されない、という、「一番行きたくない部署」のトップでもあった。
大抵は他の部署でトラブルをおこした者が、ここの部署へ「左遷」されるのだが、リノアの場合は最初からこの部署へ配属されたのだ。
自ら希望してのことである。
試験に合格した者が、どこの省に振り分けられるかは、すべての省の人事をひきうけている組織が決定する。どこの省なのかが決れば、職員はよほどのことが限り、定年までその省に勤めることになる。よって省をまたぐ移動のみ調整は人事組織がひきうけるものの、その後の省内の職員の人事権は各省の采配に委ねているのだった。
国防省の場合、新任の者に希望部署を尋ね、それをもとに配属先を調整することになっていた。リノアは、省の希望部署のアンケート用紙に資料室を第一希望に大きくマル印をつけたのだ。
スコールは執務室でリノアの希望用紙を見たとき思わず笑ってしまった。リノアらしい、と思ったのだ。
資料室という図書館にも似た古びた紙の匂いが入り混じった場所が好きなのだろうし、他に希望者もいない、加えて資料室には欠員がある---ということで、リノアは、希望どおりに資料室へ配属されたのだ。

リノアが資料室へ配属されてはや3ヶ月が過ぎようとしていた。仕事自体は難しくはないが、忙しい。
「なんで毎日こんなに出てくるんだろ…?」
と思うくらい整理の必要な書類や、資料の検索依頼が舞い込んでくるのだ。
にもかかわらず、ここの責任者であるはずの主任は定時になれば、真っ先に帰ってしまう。そして、残るメンバーはといえば。
「これ、整理しておいて頂戴」
紙の束がリノアの机の上に載せられる。
「一体なんですか、これ?」
リノアの先輩にあたる女性は平然と言った。
「全部今日の会議で使用したやつよ。分類しておいて」
そういい、バックを持ち、
「では、お先に失礼」
と帰ってしまう。次にこれまた別の女性がやってきて、
「こっちもお願い。データベースに移しておいて頂戴」
とこれまた、リノアに押し付け帰ってしまう。
毎日、残りの仕事をリノアに押し付け、定時に皆、帰ってしまうのだ。彼女が仕事を覚えて以来、ずっとこの状態が続いている。
「いくらここの部署で私が一番下でもさ……」
と文句の一つも言いたくなるのだが、まずは、自分が一人前になってからと
「そうよ、今は、がんばらなくっちゃ。文句が言えるくらいお仕事出来るようになったら、言ってやるんだから!」
押し付けられた仕事を片付けるべく、リノアは、勇ましく立ち上がった。
「そうだ、遅くなることスコールに連絡しなきゃ」
スコールとは、職場で顔を合わせる機会すらない。幹部と新人だから職場ですれ違う機会すらない。スコールの携帯端末にメールを送る。
「これで、よし。やりますか!」
リノアは紙の束の整理にかかった。

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文責:楠 尚巳