リノアが残業をはじめて一時間近くが過ぎていた。ようやく整理が終わり、あとは、資料の検索だけだ。
「だけどなんで毎日こんなに沢山ででくるんだろ…ちょっとは楽にならないかなぁ」
リノアは資料室の主任に以前言ってみたのだが、全然聞き入れてもらえなかった。
「数ヶ月も経ってない新人のくせに生意気だねぇ…言われたことをやってりゃ、いいんだよ」
の一言で片付けられてしまった。主任は1級試験合格者で、おとなしくしていれば自然に出世できる身である。
合理化だの変革だのして、上の連中に睨まれたら、潰される。出世できるものも出来ない。そんなわけで、ことなかれ主義なのだ。
「自分はさっさと帰るくせに…」
つい、主任に対する不満が出る。だが、主任や他のメンバーばかりを責められない。
3ヶ月ほど過ごしてみて、残業なんていうのは、やらないほうが得だ、ということを悟ったリノアだった。なんせ、残業手当が出ないのだ。
税金の無駄遣いをしない為、という理由で、給料以外でないのだった。ここまで職員の給料を削っていても、
「予算が不足している。なんとかしなければ」
と、議会で議論しているのだから、一体、何に使っているのだろう、と思ってしまう。
どんなに残業してもタダ働きになるのだから、皆、就業時間が終了すれば、一番弱い立場の者に押し付けてさっさと帰ってしまうのだ。
「今になって、スコールの苦労がわかるなぁ…SeeDだった頃、仕事いっぱい押し付けられて」
パソコンに向かい、キーを入力しながら、リノアはつぶやいた。それがわかっただけでも役所仕事を選んだ甲斐がある。わがままばかり言っていたあの頃の自分を反省してもみる。でも、今だってスコールは多忙なのだ。今気づいてよかった、と喜ぶ、どこまでもプラス思考のリノアだった。