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祭日幻想

10

リノアは、目を覚ました。
豪奢なベッドの上で寝ていたのに気づく。
(あれ?ここは?)
宮殿の別室でスコールを待っていた。そのうちドアがノックされて、召使らしき人が入ってきて…「もうしばらくお待ちください」とテーブルの上にお茶をおいていった…それを飲んで…そのあとの記憶がない。
「お目覚め?」
扉から入ってきた女性の姿を見て、リノアは驚愕した。
「あなたは!」
ビリアーズ伯爵夫人エリザベートだった。
「ほほ…あまり可愛らしいのでご招待しましたのよ。この部屋気に入っていただけましたかしら?」
リノアはベッドから降り、扉に向う。
「どちらへ?」
「決っています!帰るんです!」
ドアの取っ手に手をかけるが開かない。
「開きませんわよ、特殊なんですの。そのドア。登録されている指紋にしか反応しないんですの」
リノアはきっ、と睨む。
「どうして、こんなことするんですか!」
「申し上げましたでしょう?可愛いって」
エリザベートはやんわりと微笑み、歩み寄ってくる。
「本当に美しい肌ですこと。これならば、わたくしも、ますます美しくなれますわ…」
エリザベートの手がリノアの頬に触れる。
「離して!」
エリザベートの手を振りほどき、周囲を見回し脱出口を捜すが、窓は一つ。しかもご丁寧に鉄格子まではめ込まれている。扉の仕掛けといい、完全に軟禁するための部屋だ。
「いい子だから、お諦めになって。ね?ここにいればよろしいのですわ」
「嫌よ!!」
リノアは即座に返答し、扉をガンガン蹴っ飛ばし始めた。
(もう、こんなことならジャンクションしてくるんだった…ジャンクションした後の私の力なら一発で破壊出来るのに…!)
それでも何度か繰り返していると、扉に亀裂がはいる。エリザベートは眉をひそめた。
「おてんばさんですこと。いつものように贅沢の限りをさせた後にと思いましたけど。どうやら、その余裕はなさそうですわね」
エリザベートは、扉を蹴り飛ばし続けているリノアにすい、っと近寄る。動脈のあたりに手を伸ばそうとしたが、成功しなかった。リノアがとっさに身を捻り、エリザベートが手にしている物を蹴り飛ばしたのだ。派手な金属音をたてて、スタンガンが床に転がった。
「まぁ…」
エリザベートは手を抑え、小さく苦痛の声を上げつつ、扉の外に向って呼びかける。
扉が開き、2人の屈強な男が姿をあらわした。二人がかりでリノアを取り押さえにかかる。だが、リノアのほうが速かった。男たちの間をすり抜け、脱出し、勘を頼りに外に出れそうな道を選んで進む。しかし、なかなか成功しない。玄関らしきものすら視界に入らないのだ。
「なんで!こんなに!広いのよ!走っても!走っても!分からない!じゃない!」
走りながら、話をするのは苦しいだろうに、途切れ途切れに叫ぶ。
単に方向音痴なだけだろ、とスコールならため息つきそうだ。それでなくとも、薄暗い廊下で視界が利かない。
(お化け屋敷みたい…そいや、スコールとお化け屋敷入った事ないなぁ。今度、行こっかな?ユーレイが出てきたら、きゃーっ、とスコールに抱きついて…と、こんなこと考えてる場合じゃない〜)
別のことをしながら、別のことを考える、リノアは変なところで器用らしい。気を取り直して、ぐんぐん進む。前方の曲がり角に追っ手があらわれ、反射的に右手に見えた階段を下りてしまう。
(あれ?あれ?これってもしかして、地下への階段?どーしよ、よけい迷い込んじゃう!)
思えど、いまさら引き返せない。
そして、地下に足を踏み入れた途端------リノアは身を硬くした。

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文責:楠 尚巳