本文へジャンプ | FF8

祭日幻想

3

一言も声を発することなく場内は静まりかえったままだ。やがて、夢から醒めたように、一斉に闘技場を震わす歓声を上げる。その歓声を浴びた当の本人はというと、型どおり国王に向って礼をし、さっさと闘技場をあとにしようとするばかりだった。
「あちゃ〜、相変わらず無愛想な奴だね。手を振って観客に答えるぐらいしろよな〜僕だったら絶対そうするのに」
「あんたのは単なる目立ちたがり屋やろ、アーヴァイン。けど同感や。観客はある意味、傲慢や。賞賛してやっているのに応えてくれないと言って怒り出す可能性あるで。あとですごいバッシング受けなきゃいいんだけどね〜」
だが、セルフィのそんな心配も杞憂におわった。退場間際、スコールの表情が柔らかくなり、観客に向って、手を上げて応えたのだ。
「おおっ!」
セルフィとアーヴァインはあまりに意外な出来事にわが目を疑う。が、謎は瞬時に解けた。彼らの横にいるリノアが一生懸命スコールに向って、にこにこ笑顔で手を振ったり、力いっぱい拍手しているのだ。スコールは彼女を見つけ、彼女に向って応えただけだった。あんまり嬉しそうにしているリノアを見て、自分まで嬉しくなったのか、心が和んだのかどちらからしかった。
(この二人、やっぱり一緒にしておくのが一番いい…)
スコールの目の良さもさることながら、おおはしゃぎのリノアに二人は半ば感心、半ば呆れると同時に、
「今回はリノアを連れて行くといいでしょう。キュリアクス祭は国王主催の祭りです。パーティ出席の義務も伴いますから、君一人だと何かとやりにくいでしょう」と、送り出した学園長の笑顔を脳裏に浮かばせた。
(なんだかんだ言ってもさすがママ先生の旦那…こうなることがわかっていたんかい)
スコールのためだけに言ったわけではあるまい。任務、そしてスコールがSeeDリーダー、ガーデン司令官である以上、その評判はガーデン全体の利益にも関わってくる。また、他の面々に「今回はスコールだけですが…まぁ、各自で判断してください。剣闘士試合は見ているだけでも勉強になりますし、仕事に差し障りのない程度の息抜きは必要ですからね」と、暗に休暇を取って自費でなら、ついていってもよろしいと言ったものだ。あの時は素直に喜び、お祭り好きのセルフィと、また、なんとなく暇だったアーヴァイン------セルフィが行くと言わなかったら来なかったかもしれない------が一緒についてきたのだが。
(あのタヌキ親父。もしかして今回、タダ働きでスコールのサポートさせて保険かけとこうって魂胆だったんじゃなのか…)
二人ははじめて学園長の意図に気づき、疑う。そして二人の疑いは正しかった。結果的に保険をかけた学園長の判断は正しく、二人はこの後、タダ働きさせられるはめになるのだ。

次のページへ

前のページへ戻る
ページの先頭へ戻る


文責:楠 尚巳