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祭日幻想

8

皮膚は多少、魚のエサにでもなったのだろうが、それにしても酷かった。体中の皮膚が剥ぎ取られ、体内の血も極端に少なく空っぽといってよい状態であった。本能のままに襲うモンスターは計画的に傷つけたりはしない。モンスターではなく人間の仕業、それは明らか。徹底的に解剖され、娘の身分照会が行われた結果、3週間前に行方不明となったガリア村に住む娘であることが判明する。
「3週間…ですか。3週間不明のまま放っておいたんですか?家族は?」
「それでございます」
実は3週間前に姿を消した時、家出でとして片付けられていたのだ。朝、母親が、起きてこない娘を起こしに部屋へいくと、ベッドは空であった。両親は昨夜娘が部屋へ入っていくのを確かに見届けている。加えてベッドには眠ったあとがあり、タンスからはかなりの衣服が消えていた。
スコールは納得する。
「家出で処理されたはずが死体で発見された。しかも殺されて。もしかして他にもいるかもしれないというわけですか。たいして調べもせず家出で片付けたのは、そういうことが頻繁にあるから。そうでしょう?」
「その通りだ。何年も前から社会問題化している風潮の一つだ」
ぺロギオスの声は苦い。
最初のうちは、それなりに探したらしいが、消息不明、手がかりなし。遺体なりとも見つからぬ。しかも後を絶たたない。警察も慣れてきて、「まったく最近の奴は…」と、それが流行の一つとして片付けられ、知識人達の間で盛んに議論されてもいるのだった。
「何年も前からですか…」
「そうじゃ、年間一万人。うち、消息不明となる者が二千人ぐらいだな」
「二千…」
雲を掴むような話だ。本当の家出と犠牲になっているかもしれない者と見分けることからして難しい。だが、それだけに加害者には、やり易いことだろう。
「若い娘は、そのうち何人ですか?どんな共通点があるんです?」
ぺロギオスは先ほど若い娘と言った。ならば年間二千人の消息不明者から、さらに若い娘に絞る理由があるはずなのだ。犠牲になっているのかもと考えるのにもそれなりの共通点があるからだろう。
「切れると聞いてはいたが…なるほどな。犠牲になっていると思われる若い娘はそのうち二百人程じゃ。貴族の娘もいる。共通点はいずれも家出の仕方が同じ、家出するだけの理由がない、その二つぐらいだがな」
これらの娘達は、遺体で見つかった娘とまったく同じ家出の仕方をしており、他と比較にならないほど高い確率で消息不明となっていること。さらに、この方法で家出をした娘のうち、家族だけでなく友人恋人含め「理由がない」と異口同音に証言のあった娘の場合、ほぼ全員がそのまま行方知れずとなっていた。
「…どう考えても奇妙じゃ。そう思わんか」
スコールは頷いた。ぺロギオスの次の言葉がスコールを驚愕させる。
「祭りの終了までに、いや、正確にはメダル授与の儀が始まる前までに、真相をはっきりさせて欲しい。よろしく頼む」
「なっ…!」
キュリアクス祭の期間は2日間。そして今日、1日目が終了している。タイムリットまで、丸1日もない。
出来るわけがない。抗議をしようとしたスコールをぺロギオスが制す。
「この国はショーには喜んでも、現実の戦の匂いは嫌うのだ。祭りの終了後もSeeDに留まってもらうわけにはいかん。公表できない以上、国民から抗議がきた時、言い訳もできぬ」
それは、あんたの都合だろう、単に自分の評判が落ちるのが嫌だというだけじゃないか------スコールは心の中で憤慨する。
「俺にも限界があります。加害者がわからない、誰が犠牲になっているのかもわからない、1日ではとても無理です」
「そうかな?何もワシは、加害者が誰なのかわからん、とは言っていないぞ」
口の端を吊り上げたぺロギオス国王に、スコールは眉をひそめる。
「すべてをSeeDにしてもらうほどわが国とて無能ではない。娘の遺体が発見されたところで芋づる式に、次々解明された。その仕上げを君にして欲しいのだ」
暗に加害者を亡き者にして欲しい、と言ってくる。
「誰を?」
「会ったはずだ。ここに来る前、君らを案内した男がそう言っておった。自分と入れ違いで君らの前から去っていった、とな」
スコールは大きく目を開く。
「もしかして…あのご婦人…ですか?」
エリザベート・ビリアーズ伯爵夫人の顔を脳裏に思い浮かべる。ぺロギオスは肯定した。なぜ、と疑問を提示しようとしたスコールより、またしてもぺロギオスのほうがはやかった。
「わが国では、貴族に死を与えてよいとする法が存在しないのだ」
ああ、そうか、とはじめてスコールは納得する。つまり、せいぜい蟄居ぐらいで罪には問えないということか。どんなに許されない罪を重ねていたとしても。
(それなら法を変えればいいじゃないか…貴族だからという理由で裁けない法律の方がよっぽど変だぞ。時代遅れもいいとこだ…)
腹が立った。そして、自分の覚悟も決った。
「お断りします」
きっぱり告げたスコールに、召使が怒りで顔を赤くした。
「なんですと!契約違反をご承知の上か!」
「契約違反にはなりません。契約は模範演技と勝者に対するメダル授与。それだけです」
強引かもしれないが明記されていない以上、無効に出来ると踏んだ。「期間中、クライアントの命令になんでも従え」と明確に記載されていたのなら、従わなくてはならないだろうが、そんな文面はどこにもなかった。いい加減な契約書には隙がある。どうにでも解釈できるという点で。
ぺロギオスは口の端を吊り上げた。嫌な笑いだ。
「なるほどな。こんなリスクの大きな契約を結んだ相手だけのことはある。ガーデンはおぬしなら大丈夫と判断したわけか。部下がこの契約書を持ってきた時、ガーデンのしたたかさに感心したものじゃが。わしとて気づいていた。だから、万が一のために準備させてもらったぞ。なんと言ったかな?君の連れの女性の名…」
一番の弱点ともいうべき場所をつかれ、スコールは顔色を変えた。

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文責:楠 尚巳