「あんた、まさか…リノアを人質に…?」
クライアントとはいえ、もはや敬語を使う気がしない。
「そのはずだったのだがな、もっといい方法が見つかったのだ。君の連れが広間で、ビリアーズ伯爵夫人に目を付けられたという報告を聞いてな。ふふ、君が伯爵夫人のところへ行かざるを得ない方法を取らせてもらった」
自らの保身のことしか考えていない者の笑み。ぺロギオスにとって金で雇った傭兵など捨て駒に等しかった。金で雇った以上、どんな目に遭わせようが自分の勝手なのだ。
「あんた、リノアをどうした。彼女はどこにいる…!」
ぺロギオスはスコールの怒りを軽くあしらう。
「そうじゃな。どうなっていることやら」
その時、ノックの音がした。軍服を着込んだ警備兵が一名入ってくる。
「どうじゃ?」
ぺロギオスの問いに警備兵は敬礼して答える。
「はっ、陛下のお考え通りでした」
ぺロギオスは満足げに頷き、優越感に満ちた笑みをスコールに向ける。
「どうやら、君の連れはビリアーズ伯爵夫人の屋敷へ行ったようだ。お膳立てしたら、案の定、ビリアーズの手先の者どもが現れて攫(さら)っていきおったわ。そら、ビリアーズの屋敷は、ここじゃ。はやく助けにいかんと殺されるぞ」
くく、っと笑い声をもらし、目の前のテーブルに地図を放り投げる。スコールは全身の血の気が引く。
「覚えていろ!あんたを絶対に許さん!」
地図をわし掴みにし、スコールは身を翻し出て行った。
嵐が去ったあと、ぺロギオスと召使、警備兵の三名が残された。
ぺロギオスは、ふん、と鼻を鳴らす。
「しかし…よろしいのですか、陛下。SeeDリーダーに…」
召使がおずおずと声をかける。
「何を恐れる?たがが傭兵。しかもあんな若造をか。気にすることあるまい。あの女さえ、葬ってくれたらよいのだ」
「はぁ…」
不安に思いはしたものの、召使は沈黙するしかなかった。
スコールが全速力で王宮を出ると、正門で聞きなれた声を聞く。
「あ!委員長、終った〜?」
セルフィ、そして隣にアーヴァインもいる。
「お前ら…どうして?」
「待ってたんだよ〜どうせ通常の任務とは勝手が違うでしょ。だから、一緒に遊びに行こうと…あれ?リノアは?」
きょろきょろと周囲を見回したセルフィに、スコールは手早く事情を話す。
「それじゃリノア、その女に連れていかれたの?大変やん!!」
「スコール、車に乗れよ。君の足がいくら速くても車のほうが速いよ」
スコールは礼をいい、車に乗り込む。アーヴァインが運転するその車は、夜の道を猛スピードで駆け抜けていった。