「ええ、なんでも妖しげな魔術師やら錬金術師と名乗る連中が頻繁に出入りしているとか」
「黒魔術に耽っているとの噂もありましてよ、魔女から直々教わっていると」
魔女、の言葉にスコールとリノアはぴくりと反応する。二人は無言で視線を重ねた。
「それが本当でしたら…恐ろしい話ですわね。それにしても魔女なんて存在が、なぜこの世にあるのか不思議でなりませんわ。絶滅させる術はないのでしょうか?」
さも恐ろしげに言い放つ。リノアは無言でうつむいた。そんなリノアの内心におかまいなく会話は続く。
「難しいですね。現代では魔女ごと封印装置で封印するのが精一杯ですからな。魔女は殺せても、魔法は殺せないのが現状です。また誰かが魔女になる…その繰り返しです。魔法を持った魔女ごと殺す、それが可能になるにはまだ時間が必要でしょうな」
「あら。でも、もしかしたら近いうちに魔法だけを封印できる技術が完成するかもしれませんわよ」
「ああ、確かに。それでしたら間近かもしれません。魔法を封印出来るオダインバングルは不完全とはいえ、既に存在していますから・・・まてよ、すると魔女をモンスターのように人間が飼える日も近いかもしれませんな。そら、エサをやるから、ご主人様の言う事を聞けってね」
どっ、と笑い声が響き渡る。
「失礼ですが…」
スコールが我慢できずに口を挟む。
「私達はこれで失礼させていただきます。行こう、リノア」
感情のない突き放したような声で告げ、リノアの肩を抱き、その場から離れた。背後から「なんですの?あの態度。失礼な…」言いあうのが聞こえはしたが、スコールは振り返りはしなかった。スコールが理性を総動員し、怒りを最小単位にまで抑えたことを彼らは知らない。
「大丈夫か?リノア」
人気のない隅でリノアを気遣う。
「平気だよ。でも、少しだけ…」
壁を背にしているスコールの正面に立ち、肩に頭をのせる形でもたれかかってきたリノアをスコールは受け止める。
(もっと早く、連れ出せばよかった…)
スコールは悔やんだ。まさか他愛のない会話からあんな話に発展するとは思わなかった。彼らにしてみれば、悪意のない冗談だったのだろう、だが、それでも、あれは、魔女を人とは思っていないからこそ言える冗談だった。耐えずに殴るなり、怒鳴るなりするべきだっただろうか、と今更ながらスコールは歯ぎしりする。
しばらくしてリノアはスコールから体を離し、大きく息を吸う。
「もう平気。ありがと!リノアちゃん、復活〜♪」
いつもと変わらぬ笑顔を見せる。
「本当か…?」
「うん、気にしたってしょうがないもん。ね、スコール。お願いがあるんだけどな。わたし、のど渇いちゃった」
持ってきてほしい、と目がいっている。スコールは苦笑する。
「…了解、待ってろ。持ってきてやる」
そんなことならお安い御用だった。スコールには支えることは出来ても、立ち直らせることは出来ない。立ち直ろうとしているリノアに自分が何か出来るとしたら------結局こんなことぐらいしかないのだ。むしろ、一人で背負い込まず分けてくれようとするリノアの心遣いが嬉しい。
スコールがその場を離れるとリノアは一人、壁に背を預ける。スコールにはああ言ったものの、まだ完全に沈んだ心を浮上させることが出来ずにいた。ぼんやりと天井を見上げる。
「…ご気分でもお悪いのですか?」
気づけばいつのまにか、先ほどの噂の原因となった女性、ビリアーズ伯爵夫人がそこにはいた。