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(ざん)の剣

12

オリヴィアは寝台の上で半身をおこし、ぼーっと窓の外をみていた。

目が覚めたときは、どこにいるのかもわからなかった。
死の世界かと思ったほどだ。

「あ、お目覚めでございますか?」
その声で、ここが現世であり、そして皇宮だと理解した。

今はまだ、なぜここにいるのかも、どうして助かったのかもわからない。
わかるのは、信じていた人に裏切られた痛みだけだ。

「入るわ」
声が聞こえて、部屋に入ってきたのは……まったく見知らぬ女性だった。
背が高く、黒髪・紫色の目(ずっと変装中)、オリヴィアから向かって左頬に、欠けた魔法陣のようなものが描かれている。
入れ墨?とオリヴィアは思った。

「はじめまして。カルナです。ルナでもいいわ。あなたの代わりにエルダの儀でシーヴァー皇子の妃になりました」

あっ紫の目……!
顔色を変えたオリヴィアに、

「誤解しないでね。貴方の代わりに妃になるはずだった方が嫌がったので、私が交代したのよ」
「嫌がった?」

「そうよ。彼女も貴方と同じだった。貴方は閉じ込められ、向こうは恋人がいたのに、皇子と結婚することになってしまって悲しんでいた」
カルナは椅子を移動させ、寝台の側にすわった。

「そうだったのですか…わけがわからないわ」
「ところで貴方をこんな目にあわせたのは、誰?覚えているかしら」
オリヴィアは、答えない。
「まぁ、言いたくないのならいいけれど」

「とにかく助かったのよ。動けるようになったら、貴方を助けた光の精霊達にお礼を言ってあげて」
「光の精霊?」
「ええ」
カルナは話し、オリヴィアは自分が助かった理由を知る。

「今の貴方には二つの選択がある。貴方を裏切った人のために変わることを選ぶか、それとも貴方のことが大好きな光の精霊達のために変わらないことを選ぶかよ。どちらを選んでも同じだろうから、好きにするといいわ」

オリヴィアはうつむき、しばらく沈黙し、やがて、
「…同じじゃないです。これから先、私がどのようにふるまっても彼女が私を好きになってくれることは、ないでしょう」

「私は私を好きでいてくれる人達を大事にしたい。あんな女(ひと)のために傷ついたり、変わったりするのは嫌」
「悪くない選択ね」

オリヴィアは、ぎゅっとシーツを掴み、
「だけど嫌われているなんて、知らなかった!全部嘘だったなんてわからなかった。他の人もそうかもしれないと思うと怖い」
ポロポロと泣く。

カルナはオリヴィアの背中をさすった。
「きっとこれからも、あなたゆえに人に好かれ、あなたゆえに人に嫌われるでしょう。でもそれはお互い様よ。肝心なのは、あなたがどうしたいか、どう思っているかよ。相手の都合に振り回されないで」

オリヴィアは息を何回も吐き出し、
「彼女のこと…私は嫌いじゃありません。たとえ何か目的があったとしても、今まで何度も助けてもらったの」
そこで気づいたように「彼女は?」と問いかけたが、カルナはその問いに答えなかった。
いや、答えられなかった。
オリヴィアは気づいた。誰なのか話していないことに。
オリヴィアは観念したように、
「火の魔法士エリンナです」

見知らぬ名前に、カルナはえっとなる。
てっきり「アデリーナ」の名が出ると思っていたのだ。
「誰なの?」
「ともに養成所で学んだ私の同期です。私は回復は得意でも攻撃はあまり得意じゃないから…今まで何度も守ってもらいました」

オリヴィアは言うには…
魔法士の塔に到着したとき、アデリーナとは「私はこれから仕事」と別れて、かわりにエリンナがやってきた。
「大変だったわね、オリヴィア。どこに閉じ込められていたの。そこに何か手がかりがあるかもしれないわ。証拠を見つけに、いきましょう」
閉じ込められていた倉庫にいき、そこで刺されたという。
短剣を使ったのは、誰の仕業(しわざ)か、わからないようにするためなのだろう。

これは……
いったい何人の暗黒魔法の使い手が、魔法士の塔に入り込んでいるのだろう。
ひょっとしてアデリーナとは、帝都に潜入している連中のボスのような存在なのかも。

だが、カルナはそのことをオリヴィアには伝えなかった。
今、ここでアデリーナまで共犯の可能性が高いと伝えたら、オリヴィアは立ち直れなくなると思ったから。

カルナは決断し、オリヴィアにたずねる。
「教えて。魔法士にはどうやってなるの?」

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