「ここが地下迷宮への入り口?」
「ああ」
扉をあければ、下に向かう階段が見える。
目視できるのは数段のみ。その先は真っ暗だ。
「いちおう保存食と水を用意したよ。トイレには、いったかい?しばらく行けないと思うよ」
「……済ませたわよ。デリカシーがありすぎるのも困りものね」
睨んだカルナに、シーヴァーは肩をすくめ、
「では、行こう」
「ええ」
カルナが左手をかざす。
いちいちの指示もめんどくさいので、光の精霊達と決めた合い言葉。
《ライト》
カルナの左手に、光が灯った。
静けさの中、靴音だけが響く。
歩きながら、
「あなた気づいていたわね」
トゲのあるカルナの視線とぶつからないよう、シーヴァーは目を明後日の方向へ向け、
「君の自覚がなさすぎるだけさ」
と、とぼけた。
なんの話かというと、ここへ来る前、クリスに、ディアナの護衛を頼んだ時……
さぁこい、強いことを証明してみせるわとカルナが身構えたら、クリスは呆れ顔で、
「シルバーナイトの自分が、妃殿下である貴方に剣を向けたら即除名です。正体不明だった時とは事情が違います」
なにを考えているんですか———そう言われてしまったのだった。
自覚がない、か……
「……貴方のいうとおりかも。まだ皆に挨拶もしていないわ。今着ている服も、マガーを出たときのままよ」
ズボンとチュニックの上に、刺繍入りの袖なしサーコート。
サーコートの刺繍は、光の精霊達が刺繍した国宝級のもの。
動きやすく戦闘にも向いており、このままどんな者と会っても恥ずかしくないため、カルナはこれを普段着にしている。
子供の頃、安物の服をきて「ゼイキンの無駄使いはしない」と父大公に得意げに言ってみせたことがある。
「いい心がけだが、お前、それで外に出られるのか。姫としてすぐに誰かと会って公務に入れるのか。非常事態のとき、こんなかっこうでは外に出られない、身支度する時間が欲しいと言い、守るべき者を死なせたら許さんよ」
そう言われて、やめたのだった。
衣装とは高いか安いかではない。質素が着飾っているかでもない。
自分に求められている仕事ができるかどうかで決まるものと理解した瞬間だった。
それにしても頭が痛い。
季節ごとのドレス・装飾品だけでもセットで16着は必要だろう。
他にも部屋着・寝衣・下着…
そこでふと大切なことに気づき、
「あなた、どんな下着が好みなの?!かぼちゃパンツだけは頼まれても、はかないわ!」
唐突に叫んだカルナに、
「なんの話だ!?どうしてそんな話になるんだ!?」
「ごめんなさい。あまりにも考えることがありすぎて」
はぁーっとなったとき、あるものに気づいて二人の歩みがピタリと止まった。
床に光っている箇所と、光っていない箇所がある。
しかも光っている箇所はずっと光ってはおらず、消えたり光ったりしている。
カルナは石を拾い上げ、抜群のコントロールで、光っている箇所に落としてみる。
床が開いた。
「落とし穴か?」
「そうみたい」
次に光っていない箇所に落としてみると、ここも床が開いた。
最後にかつて光っていて、今は光っていない箇所に石を落とすと———
何も起こらなかった。
「なるほど。光っている床を記憶して、光が消えている間に渡れということか」
「みたいね。でも今は…」
カルナはがしっとシーヴァーをつかんで、
《飛べ 風の精霊》
床の上をいっきに飛ぶ。
「うわぁ!!」
シーヴァーは思わす声を出してしまう。
「情けない声を出さないの。到着したわ」
「君はクリス以上に凶暴だな。今回は許そう。だが次からは事前に説明して、俺の了解をとってくれ」
「わかった」
7歳のディアナと同じことを言うカルナだった。