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(ざん)の剣

10

「お待たせ。終わったわ」

「なんというか……想像以上。驚きだ」
「でしょうね。でも、見てもらうのが一番はやかった」

「ああ。よくわかった。あれが暗黒魔法の使い手か?」
「ええ」
「彼らは高い知能を持った魔物で、ヒトに擬態できる?」
「正確には元ヒトよ。暗黒玉を受け入れ、人間であることをやめたの。擬態したままではカリナンでも近距離からわずかに気配を感じるだけ。見つけにくいのよ。そして擬態されたままでは倒せない。殻をいくら傷つけても本体は温存されたまま、本体を引っ張りださないと。彼らはヒトを見下しているから、ヒト以下とバカにして怒らせるのが有効よ」

「…なるほど。君の倒し方はわかった。わが帝国の騎士や魔法士が、彼らを倒すには?」
「魔物の倒し方と変わらないわ。ただ桁外れの体力と魔力、精神力を持っている。そして知力はヒトと同じ。倒そうとすれば何十人もの犠牲者が出るでしょう。だから倒すことより防御に徹し、カリナンが到着するまで時間かせぎすることを考えて欲しいわ。暗黒魔法の使い手のいるところ、カリナンは必ず駆けつける。光の精霊を救うために。殻から本体がでたら、必ず気配をキャッチできる。彼らもそのことを知っているからヒトに擬態しているのよ」
「まさに宿敵だな」
だが事態は思ったより深刻。
あれは上級神官だった。あんな化け物が帝国の権力の中枢まで入り込んでいるとは…
「シーヴァー皇子、なにか入れ物もってない?アレを、出来るだけ持ち帰りたいのよ」
消滅したあとに残った、黒い灰を指さす。
「あれはすべて暗黒魔法の痕跡よ。あれで、あれと同じものにビビッとくるようなナニか、作れないかと」
直感だから、適切な単語が出てこない。
「君はすごい。そうとも、発見器を作ればいいんだ。持って帰るのに、ピッタリな袋がある」
シーヴァーは、金貨が入っている革袋を取り出し、その中身を迷うことなく地面に捨ててしまい、革袋をカルナに差し出した。
唖然とするカルナに、
「金貨は腐らないから平気だよ。そこまで金欠したら取りに来ればいいんだ。でも命は失われたらそれっきりだからな」
「そのとおりね。有り難く使わせていただくわ」
ふたりで黒い灰を拾い集めた。

《シールド 解除》

背丈の低い石の塔をおおっていた、透明な光の壁が消えた。
扉を開けると、くぐもった匂いがする。風を通すためしばらく待ち、中へと入った。

《ライト》

中を照らすと、墓を抱えるように倒れている白骨があった。
「ユーリス帝ね」
「ああ」

ジスティナが眠っているであろう墓標には———

誰よりも 気高かった姫
誰よりも 使命に生きた人
誰よりも 残酷だった 私の天使
ここに 眠る

この言葉の意味を…勝手に想像することなど、きっと許されない。
ただ事実としてこの言葉と光景を、厳粛に受け止めるだけだ。

ようやく見つけた。ようやくこれた。
今は、ふたりのために祈れることを喜ぼう。

カルナとシーヴァーは墓の前に跪き、祈った。

「ご遺体を皇家の墓へうつす?」
「いや、このままにしておこう。ユーリス帝もそれを望んでいるはずだ。ここなら先祖に説教されることもない。二人で眠れる。だが、ジスティナ妃と同じ墓に入れてやったほうがいいだろうな。近いうちに…」

シーヴァーは、墓のそばにあった、頑固に泥と砂がこびりついている木の枝のようなものを拾った。
泥と砂をこすり落とせば、あらわれたのは、琥珀の斬の剣だった。
「きのうカリナン大公が持っていた斬の剣を見ていなければ、これが神器と気づかなかったな」
シーヴァーは見回し、
「これで、斬れるとは思えないが」
「目に見えるものを斬るための剣ではないのは確かよ。大公ではない私が言えるのはそれだけ」
カルナは立ち上がり、ズボンについた砂を払った。
「帰りましょうか」
「ああ」
「また来よう。今度は花やワインを持って」
「そうね」
二人は、その場をあとにした。

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