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(ざん)の剣

3

そこから、ひといきついて……
『おお、いでよ、ケルベロス!悪を打ち倒せぇぇ!』
メロの声が聞こえ、視線を向ければ、空中で止まり、右手を前へ出し、真剣な顔でポーズをとっているメロがいた。
ディアナとふたり、とっぷりと物語の世界に入り込んでいるようだ。

「なんの本かしら?」
「あれは、冒険ものだな。主人公の勇者が、王子・魔法士・剣士・商人・賢者と一緒に旅をして、あちこちで悪い奴をやっつけるという話だ」

「ああ!」
カルナはポンと手をうち、
「権力・武力・資金・知力、全部そろえたら子供でも世界征服できるぜという話ね」
「……夢を壊すような言い方をしてくれるな」

再び、
『とぉ!』
というメロの声が、聞こえた。
メロが空中でくるくると回転し、ディアナが、すごい、すごいと喜んでいる。

それを見ながら、シーヴァーはふと疑問に思う。
「メロには、どんな力があるんだ?」
「何も。ココもそうだけど、ご覧のとおり楽しく遊ぶだけよ」
シーヴァーは目が点になり、
「えーと、でも精霊としての力はあるんだろう?」
「いいえ、精霊としても最弱よ。犬に吠えられただけでも、泣いてマスターのところへ逃げ帰るわ」
すまし顔で、きぱっと言ったカルナに、シーヴァーは思わず、
「それで、なんで守護精霊…」
と言ってしまう。

「ガイアの可愛い子供達だからよ。彼らがこの世界で楽しく幸せに暮らしているかぎり、ガイアはこの世界を愛おしく思ってくださる。マスターの役目は守護精霊を守り、彼らが楽しく暮らせる優しい世界を維持することよ。それが結果に人を、そして世界を守ることになる。だから守護精霊と呼ばれているの」
「なんと……」
皇家の守護精霊と言うから、国を、皇家を守る精霊だと思っていた。
だから「そんな力に頼らなくても」と、多くの者は思っている。
そして「皇家の」守護精霊だから、いてもいなくても自分達には関係ないと、真剣に探すこともしていない。

それがまさか、守護精霊を守るのがマスターの役目とは……

「…ということは、ひょっとして今のドリュアスは、ものすごく、まずい状態じゃないのか」
メロのマスターは、すでに故人だ。メロを守る者がいない状態である。
「そうね。好奇心が強いココの場合、すこしでも目を離したら天変地異が起こるわ。いつだったかグラッと地震がきて、ココの姿が見えない、どこだと大騒ぎになって探したら、蔓(つる)に、からまって大泣きしていた…泣いている子にガイアが反応したのね。その守護精霊を200年も放置できるなんてドリュアス人って凄いわ。メロが『おねんね』大好きだからかしら?」
それなりに楽しく過ごせていたみたいだし———と、カルナがのんびり言ったのを、
「き、君は、なんでそれを、もっとはやく言ってくれないのかな…」
「だから今日中に、メロのおうちを見つけたいと言っているじゃないの」
カルナは負けじと言い返す。

これぞ生まれた国、育った環境の違いである。
相手のやり方を頭ごなしに否定するのも考えものだが、「こういうものか」と素直受け入れすぎるのも問題なのだ。
カルナとシーヴァーが会話を重ね、お互いの事情を理解するまでに、まだ時間がかかりそうだった。
シーヴァーは、はーっと息を吐き出し、心を落ち着かせる。
くだらぬことで、ついお互いを責めてケンカしてしまう、夫婦の気持ちがわかった気がした。
「俺がメロのマスターになるには?」
「斬の剣が必要ね」
さらりと言ったカルナに、シーヴァーは、怒ってはいけないと自制しつつつ頷き、
「いますぐ地図を探す。なんとしても…いや、絶対見つけ出さなければならないと理解したとも」
そう言い、シーヴァーは本を読んでいるメロとディアナに声をかける。
「メロ、ディアナ。今から宝探しにいかないか?宝のありかをしめす地図を見つけるんだ」
『いく、いく!ディアナ、冒険よ!一緒に宝の地図を探しましょう!』
ディアナとメロは、手を取り合って喜んだ。
その様子に、カルナが笑った、その時だった。
カルナは、近づいてくる光の精霊の気配を感じたのだ。

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