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Chaos Rings

12

決闘場は、無機質な世界だった。
無数に並ぶカプセルからもれる光に、大地の暖かみも自然の厳しさもない金属の腹の中———いるだけでストレスを感じそうだ。
このうえなお彼らの精神にダメージを与えようとする主催者側の意図を感じ、アユタもエッシャーも顔をゆがめた。
これを乗り越えて勝利したときさぞかし「戦士」は今より何倍も強くなっていることだろう。
『アルカ・アレーナ』の目的が世界最強の戦士を生み出すことにあるのであれば、マナもミューシャも巻き込まれたようなものだ。
だからこそ死なせるわけにはいかない———アユタもエッシャーもその決意を新たにした。
エッシャーが覚悟を決めたように剣をかまえた。
どうせ自分の命、永くはない。
胸を患い余命いくばもないことは、ミューシャでさえ知らない彼だけの秘密だった。目の前の男は見抜いて気づいているらしいが。
「……どうして戦わなければならないんですか……」
マナは今にも泣きそうだった。
「マナ……私だって気持ちは同じよ」
「だが、戦わなくても死ぬ」
エッシャーが今の現実を二人に容赦なく突きつけた。
「奴の思い通りってことですね」
アユタの見切ったような感想に、エッシャーが淡々と応える。
「……そうなるな」
まったく、よくぞ考えてくれたものだ。
自分ひとりであるならアユタもエッシャーも命は惜しまない。
かなわないとわかっていても代弁者を倒すことに命をかけ、散ることを選ぶだろう。
だが彼らの隣には今、パートナーがいる。
この世界でただひとり絶対に死なせたくはないと願う相手が。
アユタが諦めたように二本の剣を引き抜こうとしたとき
「おかしいです!こんなのおかしいです!」
激しいマナの抵抗にぶつかった。
「マナ様……戦うしかありません」
アユタはそれだけしか言えない。
「そんな……
私は駄目……戦うなんてできない……」
アユタはそれ以上の説得を諦めた。
(マナ様に戦いを強いるなんてできるか)
(俺が護り抜いてみせる!)

アユタは今度こそ剣を引き抜いた。
その瞬間を待っていたとばかりエッシャーがアユタめがけて剣を振り下ろし、アユタはその攻撃をかろうじで己が剣で受け止める。
エッシャーは長身だけあって振り下ろされる剣のスピードも重さも尋常ではなく……なによりも細身の身体が極限までの素早い身のこなしを可能にしていた。
ミューシャが剣を天に突き上げてクリメイトをアユタに放つ。
やがて戦いはアユタの一方的な防戦となった。止むことのないエッシャーとミューシャの連続攻撃に、体力を回復させるのが精一杯で攻撃できないでいる。
攻撃して回復されるだけの戦闘———このままではらちがあかないと思ったのか、エッシャー・ミューシャは頷きあいペアアタックで回復が追いつかないほどの大ダメージを与えてきた。
「くそっ…このままでは……」
負ける———アユタは歯ぎしりする。
たとえエッシャーとミューシャがこのままマナを殺さずにいてくれても、代弁者をはじめとする主催者側はそうではない。それはアルトの件で実証済みだ。
「アユタ…もう十分です。
あなたはよく戦ってくれました。
私はここで死んでも構いません。
誰かを殺してまで生き残りたくはないのです……」
「駄目です!
俺はマナ様に死んでほしくありません!」
「……アユタ」
「それに結納はどうするのです!
生きてお屋敷に帰るのではなかったのですか!
マナ:しかし……私達の力ではエッシャー達には勝てません……
エッシャー:……悪いな。そろそろとどめを刺させてもらう。
「……エッシャー、なるべく苦しまないように……」
エッシャー:わかっている。
アユタ:……くそ、くそ、くそ!
力が欲しい……もっと、力が……

カプセルに浮かんでいた頃の記憶が蘇る……
なんだ、これは。流れ込んでくる、この記憶は。

目が金色に光り出す。いつのまにか目が金色になっている。

アユタ:俺はマナ様を護りたいんだ!

アユタの防御アップ、攻撃力アップ、速さアップ、ラックアップ。

エッシャー:何?!
ミューシャ:力が増している?!

アユタ:あなた達を手にかけたくはない。でも、そうしなければマナ様が護れないなら……俺はためらわない!

戦闘再開。

エッシャー、アタック。ミューシャ、クリメイト。
エッシャー・ミューシャ、ペアで:メンタルウォール。(ふたりは魔法反射シールドを形成した)

エッシャー・ミューシャ、ペア・アタック
エッシャー、アタック。ミューシャ、アタック。

エッシャー、トロンプ・ルイユ
ミューシャ、毒手。

エッシャー・ミューシャ、クリメイト。
エッシャー、クリメイト。

戦闘に勝利した!

マナ:……ミューシャ……ごめんなさい。
……私……私。
ミューシャ:謝ることはないわ。お互い全力で戦ったのだから。
でも、残念ね……
もっとあなたといろいろと話がしたかったな……
マナ:私もです。
ミューシャ:私達きっといい友達になれたね。

ひざまずき、肩で息をしているエッシャーの左手にミューシャの右手を重ねている。(エッシャーの剣をもっていないほうの手)

死神が現れる。

マナ:やめて!
ミューシャを連れていかないで!

死神、釜をふりおとす。

エッシャー:……アユタ、最後まで諦めるんじゃねぇぞ。
ミューシャ:さよなら、マナ。
どうか生きのびて……

ふたり、消える。

死神も消える。

マナ:ミューシャ! ミューシャ!
アユタ:マナ様!
落ち着いて!
マナ:いや! もういや!
なんでこんなことをしなければならないの!

場面かわり、オーガの戦い。
イルカとシャモがひざまずいて肩で息をしている。

オーガ:つまらん。
実につまらん。
決闘前の威勢の良さはどこにいった?
イルカ:馬鹿な……
奴はまだ武器を握ってすらいないのに……
シャモ:パートナーがいない相手に手も足も出ないなんて……

オーガ:お前達……もういい。
すまなかったな。
楽になれ。

オーガ、武器をとり、斧を振り落とす。

暗転。

ヴァティー登場。

ヴァティー:……イルカ達では相手になりませんでしたか。
オーガ:貧弱すぎる。
これでアルカ・アレーナに呼ばれようとはな。
それで、もう一方の決闘場ではどちらが勝った?
ヴァティー:アユタが勝ちました。
戦いぶりを見ましたが……やはり彼は……
オーガ:そうか、それはいい!
思った通り、アユタだけのようだな。
この私を楽しませてくれそうなのは!
ヴァティー:(オーガ……)
(私はあなたのようには強くはいられない。)
(だって彼らは……)

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文責:楠 尚巳[2011/08/07]