「……マナ様?」
「アユタ、気がついたのですね!」
アユタは立ち上がろうとしたが、まだ目覚めていない体は言うことをきいてはくれない。
片膝をつきながら、あたりをみまわす。
「……マナ様?……ここは?」
いずこかの家屋であることは確か。
だが、きらびやかな金属でできた壁や装飾品はいったい……
「それがわからないのです!私も、先ほど目を覚ましたのですが……周りは知らない人ばかりで」
マナに言われて見渡せば、確かにそうだった。
世界中から集められたとわかるような、肌の色も目の色も服装も違う人々。
どうやら気がついたのはアユタが最後だったようだ。
まだ目覚めない男に興味があったのか、みな、一様にアユタとマナのほうを見ている。
「父様は?母様は?皆どこに行ってしまったのですか?!」
心が不安なぶんだけ、マナの声は大きくなる。
無理もない、とアユタは思った。周囲の者たちは知らない人どころか、国の者ですらないのだから。
ましてアユタが目覚めるまでの間、マナはひとりぽっちでどんなに心細い思いをしたことだろう。
そう思った途端、アユタの心の奥、固く閉ざしていた扉が開きかけた。
それは彼女への―――いや、やめよう。
考えても仕方がないことだとアユタは再び心の扉を閉じた。
しょせん身分違い。高嶺の花でしかないはずだった。
だが、マナ様をこれ以上不安にさせてはならない―――その自覚がアユタを落ち着かせた。
護るべき相手を見つけると、心は強くなることができるらしい。
アユタがマナに何事か言おうとしたとき、別の方向から、落ち着きはらった女性の声がした。
「少し静かにしろ。騒いだところで何も解決しない」
それは、褐色の肌に赤い目を持つ女性だった。
伸びやかな身体に、普通の女性とは違う厳しい雰囲気を漂わせている。
まるでアユタとマナの住む国の山奥にいるという狼のようだ。
マナは目のやり場に困って赤くなる。
これほど人前で肌を露出している女性に出会ったのは初めてだった。
極度に肌を露出した衣装は、女性が肌を出すのがダブーであるアユタやマナの国とは正反対。
マナは寝るときでさえ、こんな恥ずかしい服を着たりはしない。
しかし、当の女性は恥ずかしがるようすもなく、また、それを誇るわけでもなく———
男を誘うためのものではなく、ただそれが彼女の国の生活にぴたりと合っているからそうしているということが見てとれた。
「す、すみません……」
「わかればいい」
女性はそれ以上、マナに関心を示さない。
どうやら、必要以上に他人が近付くのを自ら禁じているらしかった。
「大丈夫よ、心配しないで」
安心させようとする思いやりのこもった声の出所を探せば、別の女性と目が合った。
これまたアユタやマナの国ではみたことのない髪の色と目の色だ。
淡い黄金と空色の瞳―――これが噂にきく金髪碧眼なのかとマナは思う。
「みんなあなたと同じ。気がついたらここにいたの」