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Chaos Rings

9

扉の内側へと戻ったアユタとマナが、険しい山道を進んでいくと、案の定、モンスター達が待ちかまえていた。
粘液で気味の悪い攻撃をしてくる、ケツァルコアトル。
頭はフクロウ、暴れ馬のような、アクリス。
「かぎつめ」で襲いかかる怪鳥、ロック。
やがて歩みを進めるごとに、アユタは自分が急激に強くなっていくことを自覚する。
剣術だけではない。戦ったモンスター達の能力を与えられ、ジェムを集めながら知性も同時に鍛えられる。
アユタは、これこそ主催者側が望んでることなのかと思った。
なにもかも惜しみなく与え、限界まで強くしたのち戦わせる———まるで肥え太らせてから食べる家畜のような扱いだ。
あまりの悪趣味さにアユタは怒る気さえ失せた。さらに滑稽(こっけい)なのは、わかっていながらどうすることもできず、いいなりに動いている自分自身だ。きっと他の戦士達も今ごろそんな気分を味わっているに違いない。

だがひとつだけ確信したことがある。
やはりここは、なにかの建物の中だということだ。奥行きを出し巧みに違うようにみせかけてはいるが、実際には第一の扉とほどんど変わらない。
きっと外へ出る方法はあるはずだ———その外にどんな景色が広がっているのかは知らないが。
そんなことを考えて進むうちに、いつのまにか荒れた道が細くなり、周囲に珊瑚(さんご)が出現し濃い霧がかかってきた。視界が遮られ、やがて海底にいるような錯覚に陥り、二人は歩みをとめた。
征く道に立ちふさがるモンスターがいる。
宙に浮かぶ、怪魚。
『オンディーヌ』
アユタは剣を抜き放ち、マナが弓をかまえた。
オンディーヌは、二人を食いちぎろうとするべく襲いかかってくる。その攻撃は、凍りつくような冷気を帯びていた。
マナが、ガードしつつ『アナライズ』で敵の特性を読む。
風に弱く、魔法に弱い怪物。
ならば———
マナがアユタに『ウィング』をかけ、アユタの攻撃に風属性を付加する。
すぐさまアユタの剣が閃光を発した。
あまりの速さにマナは目をみはることになる。
今までも凄かったけれど、いつのまにこれほどの力を———
マナはぞくりと、そら恐ろしい気分になる。
それでも物理攻撃に強いオンディーヌは一撃では倒れない。
小さな二匹の生き物の反撃に怒ったオンディーヌが、体をそらせて威嚇(いかく)した。先程とは比べものにならないほどの冷気に襲われ、たちまち二人は体力を奪われる。
マナの体力はアユタのそれより何倍も弱い。アユタに体力を回復させてもらったマナは、助力すべく弓をかまえた。だが、すぐに思い直してその腕を下ろす。
この怪物に、力の弱い自分の攻撃は通じない———マナは右腕をまっすぐと前に差し出し、手のひらに意識を集中させた。覚えたばかりの風の魔法『メーヴェ』を使う。
弓よりは効いたらしいが、たいしたダメージが与えられない。
自分の弱さが悔しくて腹立たしい———泣きそうになったマナめがけてオンディーヌが襲いかかってきた。
だが、アユタがそれを許さなかった。
護ると誓ったマナをターゲットにされて、彼が黙っていられるはずもない。
アユタの双剣がオンディーヌを容赦なくとらえる。
アユタが繰り出す二本の剣の連続攻撃に耐えられず、オンディーヌは頭をさげて、その反動で尻尾を高々と上げた。その姿がアユタの前にひざまずいたようにも見えて———

そのまま、オンディーヌは消滅したのだった。

オンディーヌが消滅すると、彼らの前に視界は明けた。
細く伸びる一本道の向こうに壮麗な城がそびえ立っている。
アユタ達が知っている東方の城ではない。
細かい彫刻が施された石造りの西洋の城。天高く、すらりと伸びる美しさを持ちながら、これまでの建造物と同じく、ゆがんでいて、どこかいびつだ。
アユタとマナは、しばらくその姿にみとれていたが、やがて覚悟を決めたように、城へと伸びる道を歩んでいった。
ほどなく代弁者の声が響き渡る。
「報知する。
オーガ・ヴァティーペアが指輪を入手した。
他の者達も奮励せよ」

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文責:楠 尚巳[2012/02/26]