本文へジャンプ | FF8

Sファイル

11

冷たい風が、肌にちくちくと刺す。外気に直接さらしている部分は、たちまち感覚がなくなってしまう。こんな寒い夜に外にいるのは辛いはずなのだが、多くの人達がそれぞれのスタイルで天を見上げている。雪もふっておらず、天候もいい。絶好の舞台を与えられたこの日、みな、もっとも眺めのよいこの場所から、神秘的な天体ショーに見入っているのだ。

「綺麗・…」
リノアは、白い息を吐き出し、自然の奏でる幻想曲に見入っている。美しい夜空の下、氷山がほんのり明るさを放っていた。目の前には美しいオーロラが漂う。
「私、写真でしか見たことなかった。写真とは、くらべものにならないねぇ…」
すっごい、感動〜、リノアはもう一度息を吐き出して天空を見続ける。
「俺もだ。実際、見るのは、はじめてだな」
スコールも天空を見上げる。こちらは表情が変らないが、つまらないからではなく、性格のせいだった。リノアが、この村へやってきたのは、昨日。スコールがこの氷山で、ウェポンを退治したのも昨日。氷の女王は、そんな騒動とは無縁に、威厳ある燐としたその姿を人々の前にさらし、寒々とそびえたっているばかりだ。
「…あの中に眠っているんだよね」
リノアが、視線を天空に向けたまま、スコールに声をかける。
「…ああ」
スコールは昼間、リノアにあの出来事を全部話していた。
「ね、スコール。どうして、倒さなかったの?倒せたでしょ、スコールなら」
「かいかぶらないでくれ。あいつが、眠る方を選択してくれて、ラッキーだったと思ってるんだ。倒す自信はない」
リノアは、微笑んだ。
「優しいんだ、スコール」
「優しい?なぜだ?アーヴァインの奴は、冷酷だと言っていたぞ。倒した方が後の人の為になるのに、と言って…」
リノアは、もう一度微笑み、視線を夜空に移した。
「なんとなく思うの、スコール、この景色を壊したくなかったんじゃないのかな、って。エメラルド・ウェポンには私だって会った事あるもの。恐かったけど、姿や、放ったビームは、すごく綺麗だった。もしかしたら、ウェポンが眠っているせいかもしれないじゃない。ここがこんなに綺麗なのって…」
スコールは、わずかに笑う。
「やっぱり、リノアも、そう思うか?」
最初は倒そうとしたのだ。だが、そう思った時、ビルの言葉が頭をよぎった。

どれか一つがかけても今のままではいられない―――

ウェポンがいつどこで誕生したのか?他のモンスターと同じく、月から生まれたのか?それともこの世界が生んだのか?その謎は、いまだに解明されてはいない。だが、確かに彼らは、この世界の一部として何千年という間、存在しつづけているのだ。いなくなれば、この景色は失われるかもしれない。
(失われたら、リノアと見る事も出来なくなるな…泣くだろうか…?)
そう思ったとき、倒すよりも、元通りに封印することを考えた自分がいた。目の前の魔女は、もはや、スコールにとって何を考えるにも選択肢に入れる存在となっている。
「明日も見れるかな?」
リノアがスコールを振りかえった。
「天気さえよかったら、見れるんじゃないのか」
「そしたら、明日の夜も来ようね。あっ!明日の朝も来る!氷山から太陽が昇るとこ見に。あれって、すっごい、綺麗で有名なんでしょ。夕日も見たい」
でも、氷山に登って朝日や景色を見るっていうのも、したいなー、リノアは楽しそうに言う。
「そんなに見てどうするんだ…全部同じだろ」
スコールは、かんべんしてくれ、と思う。
「同じじゃないもん。朝と昼と夜と、外から見るのと、中から見るのとは全部違います!」
「…わかったよ。だが、昼と夜はともかく、お前、朝起きれるのか?今日だって起きたの昼だろ?」
そうなのだ。昨日スコールは夕方に一度起きたのだが、リノアはついに、夕方と朝を通り越して今日の昼まで目覚めなかった。
「起きるわよ!起こしてくれたら起きれるもん。それに昨日は特別眠かっただけだもの」
だから、起きれる―――そう言って、リノアは膨れた。
スコールは本当か、と疑問に思ったものの、こんなところまで来て喧嘩するのは、さすがに嫌だったので、沈黙した。
スコールはすっかり拗ねてしまった恋人の横顔を見る。
スコールは右手の手袋をはずし、リノアの冷たい頬に触れる。手袋で保護されていたスコールの右手は温かかった。
「暖かい〜」
リノアは、たちまち幸せそうな笑顔になり、スコールはそんなリノアの顔に自分の顔を近づけた。
「ちょ、ちょっと、スコール、人がいっぱいいるよ」
「…心配ないさ。周りを見てみろ」
スコールに言われ、リノアが視線だけ周囲に移す。見れば、皆、それぞれの世界に浸っていた。恋人と、友人と、あるいは家族と。それぞれの大切な人とこの瞬間を共有している。他者が視界にはいる者は誰もいないらしかった。
リノアは再び視線を戻すとスコールの笑顔にぶつかった。滅多に見せてくれない、スコールの綺麗で優しい笑顔。
リノアの唇にスコールの唇が触れリノアは目を瞑(つむ)った。

二人きりの休日は、はじまったばかり。

*********

Secret File No.000873
トラビア大陸イリヤ村ウェポンに関する報告
SeeD3名訓練生3名派遣
報告者:アーヴァイン・キニアス

- FIN -


【あとがき】

はじめて書き上げた(ボツにしなかった)FF8作品です。FF8にFF7の世界をプラスさせたような感じになりました。古代でエメラルドウェポンと対戦した云々は、「時の夢」の続きになっています……ってどうでもいいか。

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文責:楠 尚巳