そのふざけた陽気な声にマイオは聞き覚えがあった。
「お前…アーヴァイン!!!」
「おや?おぼえていて下さったんですか。光栄だな〜」
「ふざけるな!!」
ガルバディアに在籍していた頃からの、一番嫌いな男の出現にマイオは苛立つ。こんな男が傭兵になったら、それこそ侮辱だと思っていた相手だ。マイオは、アーヴァインも彼に対して、同じ事を思っているなど、むろん知らない。
「先輩〜。SeeDの名をかたって、後始末を全部押し付けて、自分はトンズラしようって、そりゃ、虫がよずぎですって〜」
「なにを!!大体、なぜ、お前がここにいる!」
「任務に決まってるでしょ。うちの司令官、あんたらのやり方に、めっちゃくちゃ怒っちゃってさ。いや、あれは見ものだったよ。手がつけられないんだな。だ〜から、あきらめな」
ライフル片手のアーヴァインは、楽しげであった。
「訳のわからないことをペラペラと…そのむかつくしゃべり方、ちっとも変ってないな」
マイオは身構えた。目の前の気に入らない男を倒すつもりだった。
「先輩こそ。性格の悪さは相変わらずでしょ」
「やかましい!!」
マイオは、左手を掲げ、ファイガを放った。だが、炎は吸収される。属性防御に火属性をジャンクションしているらしかった。
「僕を相手に遊んでいていいんですか?復活してしまいますよ〜。ほら」
確かにそうだった。エメラルド・ウェポンの肩にいくつも並んだ目が開かれようとしているのだ。あの目が開かれたとき、氷の封印を破って復活することだろう。
ウェポンを包んでいる氷の封印にひびが入った。
「おぼえていろ…!」
マイオはその場から退却しようとする。
「だ〜から、このまま逃げるのはダメですよ、って言ったでしょ〜」
アーヴァインがライフルをかまえ、マイオの足元に向けて数発撃った。
「きさま!一体なにが望みだ!」
「先輩があいつと戦ってくれる事をですよ。元々あいつを目覚めさせたのは先輩でしょ」
「ばかをいうな!目覚めさせたのは俺じゃない。ピメンテルの連中だ。俺は雇われただけだぞ」
「クライアントの命令、だからクライアントの責任ですか?だけど、手を貸すものがいなかったら、しなかったかもしれないでしょ?この依頼を受ける選択をしたのは先輩自身だ。先輩には奴を再び封印する義務がありますよ」
「きさま…俺に説教するか!正義の味方きどりで、自分が正しいと思ってやがる!」
マイオの顔が悪鬼のように歪み、憎悪が噴出す。
「あの伝説のSeeDなんて大層な名前で呼ばれている奴もな、俺にいわせりゃ、ただの運がいいだけの奴だ。奴は命令どおりに従った。それだけで、伝説のSeeDだ。俺が命令に従って任務を果すのとどこが違う!俺をクビにする理由がどこにある!」
アーヴァインは納得した。なるほど、この依頼を受けたのは、復讐でもあったわけだ。三年前自分を拒絶した組織への復讐。もしかして、マイオは初めから、ウェポンが復活することを知っていたのかもしれない。そう、太陽の中に引きずり出せば、封印が溶けるということを。この三年間、マイオがどんな生活をしていきたのかはアーヴァインには想像も出来ない。同情はするが、彼のやり方を賞賛する気にもなれなかった。
「…運も実力の内ってね。スコールには運を引き寄せる力があるのさ。あんたとスコールとの違いが一つだけあるよ。あいつは確かにあんたに負けないくらい冷酷で無愛想な奴だけどね、それでも子供を殺したりはしないなろうなぁ。あんたは以前、クライアントの望みをかなえる為に、誰を殺そうが知ったことかと言った。だが、スコールだったら、あんなクライアントがどんな目にあおうが俺の知ったことか、と言うだろうね」
マイオの目は憎しみに満ち、気の弱い者なら失神しそうな迫力で、アーヴァインを捉える。捉えられたアーヴァインのほうは、平然としたもので動揺はみじんも感じられない。
「今回のことだって、あいつは依頼されたわけでもないのに、SeeDを動かした。正義の為でも、世界をウェポンの脅威から救う為でもないよ。めんどうなことになって、後で、苦労するのはごめんだ、という理由でね〜。最高だよ。あんたはスコールには勝てないさ」
マイオは屈辱に顔を赤くした。マイオにとって自分以上のSeeDなど存在しないのだ。
ゴゴゴ…と轟音がすぐ近くで聞こえはじめた。
「…どうやら、復活するらしいね…」
言いたい放題言ってすっきりしたらしいアーヴァインは、視線をウェポンに固定した。氷にヒビがあちこちに入っており、氷片がこぼれおちている。肩のいくつもの目はすべて開かれようとしていた。