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Sファイル

9

ウェポンが身を起こす。足の動きを妨げていた、氷の塊が剥がれ落ち、足が自由になったのだ。ゆっくりと立ちあがる。
「長話しずぎたね。先輩、付き合ってもらいますよ」
アーヴァインは、強引に、マイオの襟首を引っつかむ。
「何をする!」
「あんたと僕は邪魔なのさ。だが、あんたを解放するわけにはいかないんでね」
アーヴァインはマイオを引きずる形で全力で走った。マイオを、途中で放り投げる、ぶつける、で引きずっていったのだから、このあと、よけい恨まれても文句は言えないだろう。
「きさま!!」
ようやく、アーヴァインの手を振り解き、マイオは迷うことなく戦闘態勢に入る。
「いいけどさ〜。めったに見れない最高のショーを見逃しますよ。先輩」
ほら、といってアーヴァインは、天空を指差した。
力強い咆哮をあげ、天空に現れたのは赤き竜、ラグナロク。誇り高きその竜は、地上に凍えそうな風の渦を叩きつけながら、自らが生み出した風のトンネルを、目にも止まらぬ速さで、突き抜けてゆく。その風の激しさにマイオは思わず目を瞑った。
起きあがったばかりのウェポンの目の前、何メートルも離れていない距離でラグナロクは、停止する。ラグナロクの上に一人の人間の姿が見えた。
「あいつは…ウォルター…?」
手にはガンブレードを持っている。鮮やかな青い刀身、ライオンハート。
「スコール・ウォルター…スコール…まさか!あいつが…」
マイオの驚愕をアーヴァインは、いつもとかわらぬ陽気な態度で受けとめる。
「そ、スコール・レオンハートさ」
二人の会話は、スコールの耳には届かなかった。スコールはガンブレードを握り締め、足元を蹴った。
「出た!エンド・オブ・ハート!」
アーヴァインが、思わず口笛を吹く。すざましい剣の嵐がウェポンを襲う。連続剣の嵐。だが、ウェポンは氷の中にいるのだから、傷つくのは氷の塊だった。やがてウェポンを覆っていた氷がすべて砕け散り、ウェポンは自由になった。
「なんだ…あいつ…何を考えてやがる…わざわざウェポンを自由にしやがった・・」
ウェポンは目を動かし、スコールを睨む。睨むだけで、攻撃はしてこなかった。
スコールも攻撃をしない。
やがてラグナロクがわずかにウェポンから離れた。
G・Fシヴァが天空にあらわれる。ウェポンめがけてダイヤモンド・ダストをはなった。
冷気と強風がウェポンを正面から襲う。抵抗する術もなく、ぽっかりと空いた巨大な穴の中に再び押し込められ、ラグナロクはその穴めがけて突進した。中で何が起こっているのかはアーヴァインとマイオには見えない。洞窟の中からすざましい冷気が発生しているのを感じ、水の匂いが鼻をつく。数十分も経った後、ラグナロクは洞窟より外へ出てきて、そのまま今度は着地する。
スコールは地面に降り立った。リヴァイアサンが天空に現れ、大津波を起こす。スコールは、洞窟めがけ強力なプリザガを放つ。水は瞬時に厚い氷と化していった。再び洞窟は閉じられ、何事も無かったように元の姿に戻された。
「終わったらしいね。さすがスコール」
アーヴァインは口笛を吹く。
「なんだ?なぜ、ウェポンは奴を襲わなかったんだ」
「さぁね、ただ、スコールが言ってたよ。ウェポンに聞いてみるって。封印を望むか、それとも自由をかけて戦うか。どっちを選択しても望みをかなえてやるってさ。今回は、無理矢理、起こされたようなもんだからね。もしかしたら、ウェポンは自分から眠りにつくほうを選んだのかもしれないって言っていた。多分、あたっていたんだろう」
「ふん…殺せばいいものを…又、ばかな事を考える連中が出てきたらどうする気だ?」
「僕もそう言ったさ〜。そしたらさぁ、前より強い封印かけて、氷壁も強固なものにすりゃ、しばらくは誰も手が出せない。あとは未来のSeeDの仕事だ、俺は知らん、って言ったんだよね。冷酷だよな〜」
冷酷と言いつつ、アーヴァインの目は完全に笑っている。
「アーヴァイン!!」
聞き覚えのある声に、アーヴァインは振りかえった。
「やぁ、セルフィ。あの二人は?」
「あっち〜。死体でもあんなとこにいられちゃ邪魔だから引きずったけどね〜、もう、重いわ〜」
「死体って、倒しちゃったの?セルフィ…」
アーヴァインが顔を青くした。
「ううん。残念でした〜」
セルフィが指差した先にピメンテルとトーマスがいる。二人共、仲良く縛られていた。
「よかった。いけ好かない奴らだけど、表向き倒す理由がないからなぁ…」
「相変わらず、甘い」
マイオはそうつぶやくと同時に、軽々と舞い上がり、空中で一回転しながら、アーヴァインの頭上を超えていく。
「しまった!」
アーヴァインが叫んだころには、マイオはピメンテルとトーマスの前に立っていた。瞬間、短刀で二人の喉元を掻っ切る。悲鳴を上げる余裕すらないまま、ピメンテルとトーマスは息絶えた。
「マイオ!お前!!」
アーヴァインがライフルを構え、マイオに狙いさだめる。セルフィもヌンチャクを構えなおした。
「…なかなか、楽しかったよ…だが、こいつらは、俺がお前ごときに遅れをとったところを見ていたのでね…生かしておくわけにはいかなかったのさ」
「自分の失敗も認められないのかい…」
わかっていたはずなのに。マイオがどんな奴なのか。それなのに、二人をみすみすマイオの餌食にしてしまった、その事実がアーヴァインには腹ただしい。
「ああ、認められないね。腹の黒い連中に雇われながら、俺が仕事して行く為にはな」
アーヴァインはライフルを撃った。だが、マイオは、これまた信じられない身の軽さで、ひらり、とかわかす。
「また、どこかで会う時もあるだろうよ…今度は復讐者としてではなく、敵として…」
近くの岩にサンダガを落とす。岩は砕かれ、砂埃が舞う。アーヴァインとセルフィは視界が遮ぎられてしまった。一瞬のことだったが、再び彼らの視界が元に戻ったとき、マイオの姿はそこにはなかった。

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文責:楠 尚巳