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シンデレラ・リノア

8

広間に入ったホワイト氏は、最も大事な主賓の姿が目に入った。
「大統領…お騒がせしまして、なんと言ってよいやら…」
ラグナは、困ったように頭を掻いた。
「…スコールの奴、完全に怒っていたぞ。俺には関係ないかもしれないけどよ、いまからでも、遅くはない。そっちのお嬢さんの指輪、返したらどうだ?」
「はぁ…」
ホワイト氏はサラを見る。ホワイト氏も気づいてはいるのだ。いくらそれだけの金はあるとはいえ、十億ギルもする買い物を親の許可なしに出来るわけがない。そして、彼には覚えがなかった。サラは青くなった。
「これは、私のですわ!取ってなんかいません。お疑いになるなんて、酷いですわ。大統領」
こうなると引っ込みがつかない。返せばそれこそ、盗み当然で取り上げたことを認めてしまうことになる。ここまで、大勢の人に知られてしまった今となっては、返すことは不可能に近い。ホワイト氏はため息をついた。家の名誉の為にも嘘を通さなくてはならない。
「と、娘は申していますので、父親として信じるしかありません。妻亡きあと、家のことは、二人の娘たちにまかせっきりでしたからな。内緒で買い物でもしたんでしょう」
ラグナは腕を組んだ。
「う〜ん、本当に、それならいいんだけどな。俺をは違ってあいつは、完璧主義だからな〜。世界に二つとあるものを、リノアちゃんに贈ったとは思えねぇ。嘘だったら、すぐばれるぞ」
サラもマーガレットもホワイト氏も刻印のことか、と思った。リングの裏に名前を刻むのは、皆やっていることだ。だが、そんなのは、土台を変えてしまえば済む。他にあったとしてもこれから調べて、つくりかえればいい。今ここで、スコールが暴いていかなかったのが幸いだ。やはり、若い、とホワイト氏は思った。
「私は、娘を信じます。あれが准将のものと言われても…違和感がありますから。軍人は、そんなに儲かるのかな?と思ってしまいます」
ホワイト氏は苦笑した。ラグナは陽気に笑った。
「いや〜違う、違う。スコールだったら、買わなくてもいいぜ!さっき、スコールがお嬢さんとの会話で、その石っころは、秘境にある、とかなんとか言ってたろ?あいつ、たぶん、自分で行って、取って来たんだと思うぜ。あいつに行けないところなんてないからな〜。と、するとだな、完璧主義のあいつのことだ。秘境にある石の最高のものを選んで取ってきて、土台も、世界一のツクリテ、シュミ族の連中に頼んだに違いねぇ。俺は石っころには、詳しくないからそれ以上、分からないけどな〜」
何か細工ぐらいあるんじゃねぇの、と偉そうに頷くラグナに、ホワイト氏は不安になった。沈黙ののち、マーガレットが、思い切って口をひらく。
「秘境にある最高の石…もし、本当だったら、ごまかすことなんて出来ないかもしれないわよ…・サラ?」
マーガレットは宝石に関する知識なら父親よりも妹よりもある。
「世界に出回っているエンジェルティアーは、存在そのものが稀少とはいえ、出来そこないの石よ。偶然落下してきた物とかね。頂きに眠る石とは違うと言われているわ。何が違うのかは、知りようもないけど。なんせ実物が手に入らないんですもの。石が眠る頂きには、誰もたどりつけない。そう、今の技術では、誰もたどり着けないはずよ…」
「いや〜、あいつにギジュツなんて必要ねぇだろ?どんなところなのか知らねぇが、さっさと頂きまでいっちまうさ。惚れた女が絡むと火の中、水の中。おまけに火事場の馬鹿力も出るらしいからな。俺と同じで」
よけいなことを付け加え、うん、うんとラグナは一人で納得している。この中の誰も、スコールの父親が自分だとは知らないにもかかわらず、少しでも父親風を吹かしたいのだった。
ホワイト氏もサラも困惑する。石そのものをつくりかえるわけにはいかない。世界に二つと存在しないのなら、ごまかせない。見た目は、以前目にしたエンジェルティア−となんら、変わらないようにみえるのだが…・
「大統領…詳しくお知りのようですが、いったい、あのリノアとかいう娘と准将は、どういった関係なんです?」
「ん?ああ、リノアちゃんか。見てのとおり、スコールの可愛い彼女だぜ。一緒に暮らしているし、リノアちゃんが大学卒業したら、ケッコンするつもりなんだろ。っていうか、はなっから、リノアちゃんの騎士になること以外、考えていねよなぁ、あいつ」
「あの女が…・!」
サラは絶句した。
ラグナはのんきに続ける。
「ま、そういうことだからよ。返したほうが身のためだと思うぞ。なに、今、返せば、大丈夫!リノアちゃんは優しいからな。指輪が返ってきたら、それで満足して、スコールの奴に何もしないでいいって言うに決ってんだ。あいつはそれに逆らえない。おたくらには、な〜んにも被害は出ないさ」
「確かに…そういうことでしたら…サラ?本当にお前のかい?」
エスタ大統領の言うとおりであるなら、返すのが一番の得策のように思われた。家名を傷つけず、名誉も守られるのなら、手段はどうでもいいのだ。
サラは唇を噛む。父親が遠まわしに返しなさい、と言っているのを理解したからだ。だが、サラには信じられなかった。サラはリノアのような性格をしていない。サラがリノアの立場であるなら、絶対に許さない。恋人にいいつけ、酷い目にあわせてもらう。だから、サラには、理解できなかった。
そして、サラにはもう一つ理解できないことがあった。
「いったい、あの女の、どこがいいの…・?なにを持っているというの…?」
ラグナは半分は演技で、難そうな顔を作った。
「そりゃ、スコールじゃなきゃ、わからんだろうな〜。スコールが必要としているものと、お嬢さんが必要としているものとは違うってことさ。あんたらにとっちゃ守る価値があるホワイト一族。だが、それ以外の連中は守る気なしでホワイト家の悪口言いたい放題、無知で無理解で、倒産しようが破産しようが困らないのと同じだな」
その場の誰もが失礼な言い方だと思いはしたが、腹は立たなかった。ラグナの口調には嫌みがないし、確かにそのとおりでもあるのだ。自分の家族を自分達以上に大事に思ってくれる人なぞこの世にはいない。だからこそ自ら行動し自分の手で守る必要があるのだ。

だが、いつだってサラは高みに立って他者を見下ろす立場の者だった。だから、リノアに白旗ふって降参するなど絶対に出来ようはずもない。
「サラ…」
父親の促しに、サラは甲高い声で叫んだ。
「これは、私のよ!お父様はわたくしを、お疑いになるの!酷いわ!」
その声の大きさに周囲が、ざわめく。サラは、広間を抜け出し、部屋に急ぎ足で引き返してしまった。
ホワイト氏とマーガレットは、タイミングよく顔を見合わせた。サラは末っ子であるぶん、誰よりも甘やかされて育ってきている。思い通りにならないことがあることに、慣れていない。ホワイト氏も娘には甘いとはいえ、それがホワイト財閥そものの利益に関わってくるとなれば、話は別で娘一人のわがままを優先する気はない。とはいえ、それはあくまで最終的な手段で、願いを聞いてやりたいのが本音だった。それに、あんな若造に頭を下げるのは、苦痛でもある。だが、これからあの青年が軍で出世していくことは確実だった。今から、敵にまわすのは得策ではない。なだめておく必要があるだろう。指輪の代金を支払うか、別のエンジェルティア−を買い取って贈るか。どちらもホワイト家には出来る。サラの気持ちも尊重できるだろう。
ホワイト氏がそこまで思考したとき、ラグナの声がふってきた。
「決めるのは、あんたらだ。だけど、最後にひとつ忠告しておくぞ。あいつは、リノアちゃんみたいに優しくはない。おまけに執念深い。タチの悪いことに強ええ。さらに頭もいい。世間知らずではあるが、こういった分野は得意だ。騙されてはくんねぇぞ。それにだな…」
ラグナは、よほどおしゃべりか、教えたがりの性格をしているのかのどちらかだろう。まだ延々と話し続けるつもりでいる。
「おたくんとこ、ガルバディアと共同油田開発の話あったよな〜。ガルバディアは、バラムのように民間じゃなくて、油田開発は国が独占してやがる。今のガルバディアは粛清による人材不足がたたってカーウェイひとりがなんとかやっている状態だ。あいつの事だから公私混同はしねぇだろうがよ……いや、待てよ。スコールを怒鳴るってことはあるな。君がついていながら、とか、なんとかかんとか言うかな?うん、ありえるぜ!可愛いひとり娘を、なんて目にあわせてくれたってな〜。と、すると、スコール奴、カーウェイには適当にごまかすかな、やっぱ。さらに嫌みを言われるとわかって言うのは面白くねぇ。でも、くそ真面目な奴だからなぁ〜」
言い始めた当初の目的をすっかり忘れて、ラグナは腕を組み天を仰ぎながら、一人、楽しい空想にふける。
ラグナは自分の発言が、ホワイト氏とマーガレットを動揺させた事に気づかなかった。

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文責:楠 尚巳