リノアが根も尽き果てた頃、長かった5日間が過ぎ、無事に解放される日を迎えた。
パーティ会場は完璧にセッティングされ、午後過ぎにやってきたホワイト氏を満足させた。彼は、さっそく二人の娘達の労をねぎらう。
「さすが私の自慢の娘達だ。お前達もそろそろ準備しなさい。うんと美しくな」
「ありがとう、お父様」
「今日は特別な客がくる。エスタ大統領だ。今度エスタとバラムを直接、航路で結ぶ話があってな。その打ち合わせのため、エスタ大統領が今、バラムに滞在されているのだよ。どうやら、うちの社が請け負うことになりそうなのだ。魅力的な仕事だ。お前達、くれぐれもそそうのないようにな」
「へーっ、エスタ大統領が…でもおじさんなんて興味ないわよ」
サラが率直な感想を漏らす。
「はは!そうだな。だが、もう一人、初対面の客が、来るぞ。バラム軍のスコール・レオンハート准将だ」
二人の娘は興味深そうな顔つきになる。
「スコール・レオンハート准将…って、あの、元バラムガーデンの司令官、SeeDのリーダー?」
この国の人にとってガーデンはなじみ深い。軍隊が頼りないぶん、さまざまな武器を使いこなし、強力なガーディアンフォースと疑似魔法を使うことのできるSeeDと、それを抱えるガーデンの存在に安心しているようなところがある。SeeDのリーダーが必ずしもバラムガーデンから誕生するとは限らないからこそ、バラム出身のSeeDのリーダーともなれば知名度も高かった。
ホワイト氏はうなづいて肯定する。
「そうだ、長官の代理でくる。私も会ったことはないが、好青年らしい。SeeDのリーダだったことでガルバディア、エスタをはじめ、世界中に太いパイプを持っている。今、社交界が一番狙っている青年だろうな。実物を見てみないとわからないが、できることならうちが貰いたいところだ」
「それなら考えようかしら」
条件が魅力的―――口には出さず表情でマーガレットが伝えてくる。マーガレットには、自分の価値を高めてくれる男であることが何よりも重要だった。愛がどうの性格がどうのとつまらない小娘が想い描くような結婚に興味はないのだ。それはサラにしても同様である。だが、その気になれば60才台の男性とも結婚しそうな妖しい雰囲気のある姉に比べて守備範囲は狭い。それだけに若いというのはサラにとっても滅多にない好条件だった。
「姉様は年上じゃないの。果たして相手にされるかしらね。どっちが勝っても恨みっこなしよ」
「はい、はい。出るところも出ていないくせに口だけは一人前なんだから」
「これ、やめなさい。はやく支度しないと時間がなくなるぞ」
父親の言葉に、二人の娘のうちひとりは不満げに足音も高く、ひとりは余裕の表情で静かに、それぞれの部屋へ引き返していった。
この時、リノアの元にまだ指輪は戻っては来なかった。