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シンデレラ・リノア

7

拍手が鳴り響いている中をスコールは泳ぎぬけ、庭に出る。
リノアは、スコールがいたことに始めて気づき、絶句した。
(そんな…こんなところ、スコールに見られるなんて…)
自分が全身ずぶ濡れの悲惨な格好をしているであろうことに、リノアは泣きそうになる。こんな格好を、スコールだけには、見られたくなかった。自分が指輪をなくしてしまったことも知られてしまったのだ。

人混みをかきわけて前に出たスコールは、ホワイト氏と二人の娘と正面から体面する形になった。険しい表情をしているスコール気づき、拍手が小さくなり、やがて止んだ。
スコールの表情から、彼が機嫌を損ねていることに気づいて、サラが慌てて繕う。この青年に「できない女」の烙印を押されたら、今、芽生えたばかりの甘い夢も水泡に帰す。
「レオンハート准将。このような失態をお見せしてしまい、お恥ずかしい限りですわ…どのようにも…」
スコールはそれ以上黙って聞く気になれなかった。
「彼女が、このホワイト家のメイドとして雇われている…確かですか?」
答えたのはマーガレットである。
「いいえ、今はメイドではありませんわ。5日前、お金に困って雇って欲しい、と言ってきたのですけど。こちらも困っていたところだったので、つい素性も確かめず、雇ってしまったのです。ですが、こんな女と分かって、辞めさせました」
スコールの表情は能面に等しい。だが、次に発した言葉が、決して無関心ではないことを証明する。
「…こんな女、か…どんな女なのですか?」
思いもよらなかったスコールの質問に、マーガレットもサラも不思議がる。そんなのは、この騒動を見るだけでわかるではないか、と。
「おわかりでしょうに。賓客が大勢いる中、このような騒動を引き起こし、主人に平気で恥をかかす。今のずぶ濡れ姿も、羞恥心のある女性なら、見るのも、耐えられませんわ。殿方の前、公衆の目の前でこの格好…・それなのに、気にもせず喚き散らすのですもの。同じ女性として、恥ずかしいですわ。こんなみっともない子、この家には置いては置けませんでした」
サラも姉の意見に同調する。
「たまに、いるのです。主人の物は自分の物、と思いこむ使用人が。何を言っても無駄で同じことを繰り返す。本当にいい迷惑ですわ…」
「…言ってくれるじゃないか…」
スコールは、はじめて表情を動かして笑う。怒りを包み込んだような笑いだった。
後方から見守っていたラグナは、まずい事態になってしまったことに頭を抱える。知らぬこととは言え、二人は言ってはならないことを言ってしまったのだ。自分に聞こえる範囲内でレインの悪口が通じないように、スコールの前ではリノアの悪口は通じない。許容できるのであれば、たった一人の大事な人として選ぶ理由などどこにもないのだから。
ラグナの内心の焦りと、スコールの口調の強さに驚いているマーガレットとサラを他所に、スコールの声がさらに低くなった。
「…お前達が無事でいられるのも、彼女のことを、恥ずかしいだの、みっともないだの言えるのも、それは、彼女が優しいからだ。俺だったら、取り上げられた時点で、お前達を倒し、指輪を奪う。侮辱されたら、二度とへらず口が叩けないようにしてやる。彼女が、そうしないのは、お前らのような人間でも、心底嫌うことが出来ないからだ。言っておくがな。力の強さだけだったら、俺より彼女のほうが強いんだぞ。しかも、返してもらえる、と信じてメイドまでした…信じるほうが悪いと思うか?俺は許さないぞ…彼女の優しさにつけ込んだばかりか、素直さを利用したお前達を、絶対に許さない」
無口で通っているスコールが、これだけしゃべるのは、滅多にない。怒りが、理性を上回った分、考える余裕もなく、思いつくままに言葉が出た。マーガレットもサラも事情が飲み込めず、困惑した。なぜ、スコールがここまで怒るのかも理解できない。ホワイト氏も、部屋の中から、見守っている紳士淑女の群れも同様だった。
スコールはそれらに背を向け、歩きながら、軍服の上衣のボタンを外し、脱ぎ始める。
全身ずぶ濡れのリノアに上着を被せた。
「…大丈夫か…?帰ろう」
リノアは涙声になる、
「ごめんなさい。私、指輪、返してもらおうと思ったけど、駄目だったの…せっかく、スコールがくれたのに…なくして、ごめんなさい」
スコールは微笑した。
(なくして、ごめんなさい、か…・やれやれだな…こんな目にあっても、まだ…・)
スコールはリノアに触れる。
「いいさ。指輪なんかより、リノアのほうが大事だ…夜中にそんな格好じゃ、いくら夏でも風邪を引くぞ。帰ろう」
スコールがリノアの体を抱き上げると想像以上の冷たさが伝わってきた。
抱きしめなおしたスコールにリノアは一瞬とまどった。だが、本当に一瞬だった。スコールの首筋に手を回し抱きつくことで応えることにした。
「…では、ミスター・ホワイト。今夜は実に楽しい夜でした。いずれこの借りは、お返しさせていだたきます…失礼いたします」
スコールの表情や口調から、その言葉を賞賛と受け止めた人間はいなかった。スコールはリノアを抱き上げたまま、呆気にとられている一同を無視し、歩き去った。
後に残された人々は、事情がわからず、様々に自分達の好みにあわせて勝手に想像し、噂しあう。
ホワイト氏も例外ではなかったものの、主催者としてパーティを続行させ、成功させることが先決であった。
にこやかに笑顔を作る。
「みなさん、お騒がせ致しました。さぁ、お戻りを…」

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文責:楠 尚巳