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シンデレラ・リノア

1

リノアはカーテンを思いっきり開け、気持ちよさそうに、背伸びをした。
「んーいい天気!」
ここは、バラムの彼女の家だ。ドアを開けると小さな庭を通り抜けて入ってくる風が気持ちいい。
今は夏休み。
大学の夏休みは長く、休み中の計画はそれなりに立てているものの、しばらくの間、暇になりそうだった。
「さぁて。今日は何をしようかな。スコールもいないし……お買い物にいこうかな」
弾む心で着替えをして、おしゃれをする。一人でバラムのファッション街に繰り出した。

「あれ〜?ここ、どこ?」
リノアは見事に道に迷う。見たこともない場所だ。
どうやら、バスを降りる場所を間違えて、バラム郊外に出てしまったらしい。
「まいったなぁ、でもここに来るの初めてだね…ちょっと散歩してみよ」
好奇心から、ウィンドウ・ショッピングの予定を変更して、散歩をすることにした。
森の豊かな、よく整備された静かなところだ。大きな別荘があちこちにある。
発見した案内板には、よく知っている地名が書かれていた。
「ああ、そっか。ここがバラムで有名な避暑地なのね。すぐ、近くって聞いてはいたけど…ふーん」
金持ちの別荘がずらりと並び、しかも今は夏のため、滞在している人で賑わっている。数多くあるテニスコートやら、プールやらには、いずれもそれに興じる人々がいた。どこも少人数なのは、各自が自ら所有しているものだからだろう。
「お金って、あるとこには、あるのねぇ…あ、あれなんかすっごい家」
リノアは、あんぐり、と口を上げて見上げる。彼女自身お嬢様であったはずなのに、すっかり忘れているらしかった。

そんなリノアの足元にテニスボールが転がってきた。リノアは反射的に拾い上げる。
一人の女性がリノアに近づいてくる。年齢といい体つきといいリノアとたいして変わらない女性で、肩ほどの巻き毛の金髪を頭の頂点で結んでいる。
「返して」
リノアの服装から、即座に「迷い込んできた場違いな貧乏人」と判断したらしく、その態度も口調もどこまでも高飛車だった。
リノアはむっ、としながらも、ボールを返す。リノアがボールを女性の手のひらにのせた瞬間、女性の目がきらり、と光った。
「あなた…それ…」
視線はボールを掴み、差し出した右手に集中する。そこには、指輪があった。幾度目かの誕生日にスコールからプレゼントされたリノアの一番のお気に入りの指輪だった。
「あなた、その指輪どうしたの?」
「えっ、ああ、これですか?これがどうか?」
「…どこで買ったの…?」
「さぁ?貰ったものですから…どこかのお店で買ったんだろうけど。あの人、アクセサリー好きだけあって、こういうことには詳しいもの」
女性の目がきらり、と光った。今度は、あからさまに軽蔑している。
「ふん……」
女性は、リノアの手首を掴み、指輪を引き抜いた。一瞬の出来事で、予想もしなかったことにリノアは呆然(ぼうぜん)とする。そのうち我にかえり、
「なにをするんですか!!返して!」
「私が貰うのよ。あなたみたいに、価値さえ分からない人が持っていても、しょうがないわ。あなたには、身に過ぎた物よ。金は払うわよ。ほら、どこかのお店なら、1000ギルで十分でしょ」
そういい、リノアの足元に1000ギルをばら撒き、さっさと行ってしまおうとした。リノアは頭に血がのぼった。
「それはあげられない!お金をいくらもらったって同じよ!返して!!」
女性に掴みかかろうとしたとき、ガードマンらしき男が4〜5人やってきて、阻んだ。いずれも武器を持っている。
「お嬢様に近づくと酷い目に会うぞ…行け!」
武器を突きつけ、ドスのきいた声で脅迫してくる。
「無謀なことしたのは、そっちじゃない!返してよ!私の指輪…・」
「金を貰ったんだろう…今更、なんだ」
「貰ってなんかない!そっちが勝手にばら撒いたのよ!」
「うるさいぞ!!さっさと帰れ!」
引き金に指をかけられ、リノアは沈黙するしかなかった。
結局、取り戻せないまま、その日は引き上げるしかなかった。

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文責:楠 尚巳