「ご苦労様。これであなたは、終わりです」
リノアが、そう告げられたのはパーティがはじまる直前の夕方だった。
リノアは、ほっと胸をなでおろした。ようやく解放されたことに安堵の息をもらす。5日分の給料を差し出されたがリノアは拒否した。
「お給料はいりません。指輪を返して欲しいんですが…」
メイドは眉をひそめる。
「私は聞いてはいませんよ…そんなこと」
「じゃ、直接、聞いてみます。ありがとうございました」
リノアは2階に駆け上がり、サラの部屋の扉をノックした。
「なによ」
ドレッサーの前で髪型の崩れがないか念入りにチェックしている最中で振り返ろうともしない。うっすらとピンク色の純白の絹のドレス姿も美しい。
「終ったわ…指輪返して頂戴」
サラは鼻先で笑った。
「あら、私はそんな約束していないわよ。お姉さまとしたんでしょ。だったらお姉さまに返してもらいなさいな。もっともお姉さまは持っていないだろうけど」
サラはくすくす笑う。リノアは顔色を変えた。もしかしてと思ってはいたが…
「返してくれるって、いったじゃないの!返してよ!」
同時にヒステリックで不愉快な音が部屋中に響いた。サラが手に持っていたクシを叩きつけるようにドレッサーに置いたのだ。
「うるさいわね!もう終ったんでしょ!さっさとその子、つまみだしちゃて頂戴!」
屈強のガードマンが2人やってきて、リノアを引きずっていく。
「やだ、やだ!離してよ!許さない!返してよ!」
どうあっても、振りほどけず、玄関の前に放り出されてしまい、扉はかたく閉ざされた。
「そんな…・」
しばらく呆然と座るしかないリノアだった。
……数時間後、シャンデリアのまぶしい輝きの下、ぞくぞくと正装した人々がホワイト家を訪れる。
その中で一際、VIP扱いで登場した者がいる。エスタ大統領、ラグナ・レヴァールだった。似合ってはいれど本人が嫌いなタキシードを着ており、はずしてしまいたいと言わんばかりに何度も蝶ネクタイに手をかける動作を繰り返しての登場だった。
「これは、これは、ラグナ大統領…よく、お越しくださいました」
「いや〜盛大だな〜ホワイトさん」
「有難き幸せ…大統領、こちらは私の娘です」
装いの限りを尽くした、マーガレットとサラは礼をする。
「へぇ、二人ともきれいな娘さんだな〜。うらやましいぜ。こんな綺麗な娘さんが二人もいて」
「はは!大統領はお世辞もうまいですな」
和やかな雰囲気で会話が始まった。しばらくして、会場がざわめく。入ってきた人物に視線が集中する。
バラム軍の軍服姿の青年である。整いすぎるほど整った顔立ちの額にひとすじの傷が走っている。
「あれが…スコール・レオンハート准将なの…」
マーガレットとサラはどちらも驚愕する。最近では年齢相応の色気と落ち着き、そして自信が加わり、ますます男ぶりに磨きがかかっていると評判のスコールである。
主催者であるホワイト氏に挨拶すべく、スコールは歩み寄ってきた。
「はじめてお目にかかりますミスター・ホワイト。長官の代理として参りました…スコール・レオンハートです」
「君がレオンハート准将か…会うのは初めてだが、なるほど、噂どおりの青年だな…」
ホワイト氏は握手をしながら、感想を述べる。
「レオンハート准将。こちらは、エスタの…」
ラグナがホワイト氏の紹介を遮った。
「あーいいの、いいの、何度も顔会わせてるからよ。SeeD時代は、すっげー世話になった奴だからな。元気そうだな、スコール」
「…あんたも相変わらずだ…能天気な性格は、一生変わらんらしい…」
スコールが冷ややかに言う。だが、ラグナは気にしない。
「それが、久しぶりに会っていうセリフかよ。俺はなぁ、ガーデン卒業以来、お前をエスタに呼ぶ機会がないんで、すっげー寂しい思いしてるんだぞ」
「そうか、勝手に寂しい思いしてくれ」
会話を無理やり絶って、唖然としているホワイト氏に向き直る。
「では、ミスター・ホワイト…」
礼をして、去っていこうとするのをホワイト氏はあわてて、呼び止める。まだ、娘を紹介していなかったのだ。
紹介ぜずに去らせるのはあまりに惜しかった。太いパイプを持っていることは知っていたが、エスタ大統領とこうも親しいとは。
「准将…私の二人の娘です」
スコールは、めんどくさそうに留まった。紹介された以上は、挨拶をしなくてはならない。
「マーガレット・ホワイトです。お見知りおきを」
ドレスをつまんで会釈しながら、右手を差し出した。
スコールは無言でとって、手の甲に口付けをした。このような時に女性が手を差し出したときは、これが作法なのだから、仕方がない。次に妹のサラが同じように挨拶をする。
スコールは、同じく無言で手を取って、僅かに動揺した。口付けを済した後も、サラの手を離さない。手の甲をしげしげと見つめる。
「あの…レオンハート准将…?」
サラは顔を赤くした。マーガレットは、嫉妬の目で妹を見、ホワイト氏は僅かに喜びの表情を浮かべた。サラに興味を示した、と思ったのだ。
だが、スコールが、サラの手を離さなかったのは、他の理由からだった。彼の興味を惹いたのは、彼女の指に光る、うっすらとピンクがかかり、小さくて純白に輝く球石だった。