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シンデレラ・リノア

2

「どうしよう……」
家に帰って、リノアはひとり、泣いてしまった。自分の情けなさが悲しかった。あるいは魔女の力を使えば簡単だったのかもしれない。
でも、使えなかった。あんな別荘地で使ったら、周囲の建物や環境まで壊してしまう。巻き添えになる人も出てくるかもしれない。そう思うと、使えなかったのだ。
「わたしって…ほんとうに、お人よしなんだ…コントロール出来るようになっても、全然魔女らしくならない…」
本人は大いに反省しているのだが、他人が聞けば、自画自賛しているように聞こえたかもしれない。
「とにかく…明日もう一度行かなくっちゃ…返してもらわないと…」
リノアは布団にくるまり、そのまま眠ってしまった。

翌日、リノアは再び、指輪を取り返すべく、昨夜と同じ場所へ行った。だが、テニスコートには誰もおらず、リノアは近くの人を捕まえて、あのテニスコートは、誰が所有しているのか訊ねた。
「ああ、あれかい?あそこらへんはホワイト家の所有地だ。ほら、バラムに住んでいる者なら知っているだろう?あのホワイト財閥さ」
ホワイト家といえば、傘下にいくつもの企業を抱え、支配している世界的に有名な一族である。
リノアは驚いたものの、別荘の所在地を聞き出し、数分後、ホワイト家の別荘を尋ね、玄関のチャイムを押すことになる。

案の定、最初は、けんもほろろな扱いを受けたものの、粘るリノアに、とうとう対応した若いメイドらしき女性は怒り出した。
「いいかげんにして下さい!警察を呼びますよ!」
「呼べばいいわよ!私の指輪を盗んだのはそっちよ!裁判でもなんでもしてやるわよ!」
玄関先で、何十分とやり取りをする。そのうち、あまりの騒々しさに耐え切れなくなったのか、階段から、姿をあらわした女性がいた。
昨日の女性だ。
「私の指輪返して下さい!あれは私の大事な人がくれたものなんだから!絶対にあげられない!」
女性はうんざりしたようにリノアを見る。
「うるさいわねぇ、金を払ったじゃないの。1000ギルなんてあなたにとっちゃ大金でしょう」
「…なにやってるのサラ。騒がしいわよ…」
もう一人、女性が姿を表した。大胆なシルクのドレスに身を包んだ黒髪の女性だ。背が高く身のこなしはどこまでも優雅だが、サラと呼ばれた女性と同じく、どこか人を上から見下ろすようだった。それを隠そうともせずに堂々と披露しているものだから誇り高い女王のようにも見える。
「お姉さま、この女がうるさいのよ。指輪を返せって。金払ったのにさ」
「あら、じゃあ、この女が…・あの指輪の…?」
黒髪の女性の目がきらり、と光った。
「ふうん…ねぇ、あなた、あの指輪私に譲ってくれないかしら?倍のお金を払うわよ」
「あれは、私のよ!絶対にあげないわよ、お姉さまになんか。私が見つけたんだから!」
金髪巻き毛のサラは、姉に反発する。
「あなたには、まだ早いわよ…数年後に譲ってあげるわ」
「いやよ!すぐ、人の物をとるんだから!」
「あなただって同じではないの?」
リノアは我慢できずに、怒鳴った。
「やめてよ!あげないっていってるじゃないの!」
ホワイト家の二人の姉妹はリノアに冷たい視線を向けた。
その時だった。
「マーガレットお嬢様、サラお嬢様」
年配の筆頭メイドらしき女性が屋敷から姿をあらわす。
「ただいま、連絡がはいりました。本家では、たちの悪い夏風邪がはやっているそうですわ。メイドの半分が倒れてしまい、こちらへは、まわせないとか…」
二人は、驚き、やがて怒りに染まる。
「冗談!まだ、半月はいる予定なのよ!5日後には、大切なお客様を招いてのパーティだって控えているんだから!お父様から、抜かりなく準備しておけ、って言われているのに、なによ、その様は!どうする気よ、そろいもそろって役立たずなんだから!」
「恐れ入ります」
メイドは恐縮しきって、深々とお辞儀をする。
「どうする?お姉さま?」
マーガレットは、舌打ちをした。
「しょうがないわよ…すぐ臨時で雇って準備するしかないわ。まったく、探す時間さえ惜しいのに…あら、一人いたわね…」
そういい、リノアを見やる。
「あなた、丁度いいわ。この別荘で5日間働かないこと?もちろんお金も出すわよ。猫の手も借りたいときなの。皿洗いぐらいは、出来るでしょう?」
「どうして、私が!」
「指輪返して欲しいんでしょ?」
リノアは言い返せず、絶句してしまった。
「そうね、あなたの働きようでは、返してあげないこともないわ…いかが?」
理不尽だ、とリノアは思った。盗み当然で指輪を取ったのは、そっちではないか。なのに、なんで、自分が働いて、取り戻す必要があるのだろう?
わかってはいたが、それでも取られてしまったのは、自分の責任である。なんとしても自分で取り返さなくてはならなかった。
「本当に、返してくれるの?」
リノアは念を押して聞いてみる。
「ええ、返してあげるわ。安いものよ」
「わかった…返してくれるのなら、してもいい」
リノアは可能性に賭けることにした。マーガレットは女王めいた表情で満足そうに頷く。
「ちょっと、お姉さま、あの指輪は…」
「あなたは、黙っていなさい。今がどういうときか知っているの?5日後のパーティを成功させなかったら、いい笑いものよ」
サラは口を尖らせながらも承知する。
「じゃあ、さっそく働いて。名前は…」
「リノアです」
「ああ、そう、リノア。彼女から指示を貰って。ああ、もう。本当にとんでもないことになったわ。すぐ他のメイドも手配しなくては」
マーガレットは、側の年配のメイドを指差し、ぶつぶつ言って去っていく。
こうしてリノアは、住み込みで5日間、屋敷で働くことになった。

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文責:楠 尚巳