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月の夜話

9

リノアの話はそこで終った。

「…ロサちゃんとは、結局そのまま、別れちゃった。私、何にもしてあげられなかった。でも、おばさん、なんで、あんなこと言ったんだろって。夫を殺した政府側の娘、って責められて当然なのに。なんで優しくしてくれたのかな?それが逆に辛くて、忘れられなくなって…」
今までリノアの話を黙って聞いていたスコールが、はじめて口を開く。
「俺には、わかる気がする…きっと…」
「きっと?」
リノアは顔を上げ、次の言葉を待った。
「可愛かったからだろう」
あまりにも予想外の言葉にリノアは固くなり、ついで頬を膨らます。からかわれた、と思ったのだ。その様子に、スコールは、声を出して笑う。

きっと、ロサの母親は、これからのリノアの未来を予感したのだ。特権階級に住まう自分と民衆と―――違うと思うことができる娘であれば、他人の苦しみに心を痛めることもなく父親の権力に守られながら、楽しく暮らすことが出来るであろうに。
(この子にはそれが出来ない…)
これからもあるだろう。世の矛盾さ、理不尽さに触れる時が。それに屈して捻じ曲がってしまうのには、あまりにも惜しい天使の輝きで。だから、失わないで―――とそれを伝えたかったのだろう、とスコールは思った。だが、それらを口に出してリノアに伝えることは、照れくささもあって言えないスコールだった。
「なによ…からかって。ひどいよ!私、これでも、真剣に悩んできたんだよ。ロサちゃんのお父さんだけじゃない。なんでこんな酷いことが許されるんだろう、って。お父さんが許せなくなって、家出して…レジスタンスにまで入って…」
じわり、とリノア目を湿らす。
「からかってなんかいない…わかるよ。リノアは、偉いさ。俺は…」
自分はエルオーネと別れて、変わった。痛みに耐える為に、変わることを選択した。友も恋人も必要ない。誰かのために何かをしようとも思わない―――そうすれば、痛い思いをせずにすむと思った。そしてそれは成功したのだ。一人になることと引き換えに。
何度拒絶しようとも、変わらず語りかけてくるリノアは自分とあまりにも違いすぎた。
「結局、俺は逃げた。それを教えてくれたのはリノアだ。リノアほうが何倍も偉いさ」
「誉めてくれるのうれしいけど、それってちょっと違うと思うな。スコールがいなかったら、私、とっくに悪い魔女になっていたもん。私は、スコールに昔も今も助けられてばっかりだもの」
「その前に、俺と出会わなかったら、魔女にならずに済んだんじゃないのか?」
リノアはうーん、と考え込む。
「ううん、やっぱり、ガルバディアが魔女に乗っ取られた、って聞いたら、私、乗り込んでいったよ、きっと。そしたら、もう死んじゃっているかもしれないもん」
「そしたら、サイファーにでも助けてもらっているんじゃないか?」
スコールの意地の悪い質問にリノアは拗(す)ねた。
「そんなことあるわけないでしょ!魔女の騎士になることに憧れていたあいつが、私の味方になってなんかくれるもんですか。絶対にイデアさんの為なら、とか言って私を殺しにかかるわよ」
リノアは、迷うことなく断言する。
「…もう、やめるぞ。答えがでそうにない。眠ろう。もう眠れるだろう?」
生きてきた一瞬、一瞬が、自分達が出会ったあの日に繋がっている。過去があって、あの日があって、そして今がある。エルオーネと別れ、心を閉ざして生きてきたあの日々すら、愛しい。あの日々があればこそ、こうして、リノアを愛し、そして愛されている自分がいる。
「うん」
声に出して言ったわけでもないのに、思いはリノアに伝わる。そっとスコールに寄り添ってきた。
そして。数秒もたたないうちにリノアの寝息が聞こえはじめた。
(あいかわらず、寝つきがはやい…)
苦笑しつつ、スコールも目を閉じる。ふと、今に続く時を、自分に与えてくれた重要な人物を思い出す。

ラグナがスコールに後ろめたさを感じているらしいことは、気づいていた。スコールには、もともと恨む心など最初からない。もっと違う人生、もっと違う自分になっていたら。こうしてリノアと出会い、彼女を愛す自分もいないのだから。

だが、気にするな、と―――口に出して伝えたことは、一度もなかった。
(やっぱり、これぐらいは言うべきなんだろうな…それと、カーウェイ大佐…)
何故あの父親の許でリノアはこんな気性の娘に育つことが出来たのか、それはそれで不思議なのだが。
(感謝、しないとな…)
そんなことを考えながら、スコール自身もいつの間にか、再び眠りにおちていった。

- FIN -

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文責:楠 尚巳