「リノアちゃん♪あっそぼ〜♪」
節をつけた元気な声が邸の外から響く。リノアは背伸びをして、窓から外を見る。
「待ってて!今行くからね!」
外に向かい大きく手を振ると、急いで部屋を出て、まっすぐ食堂へ向った。そこで、お菓子をすくねた後、遊びに行くのだ。
「まぁ、お嬢様…」
リノアを見るなり、メイドが形ばかり引き止めてみるが効果はない。
最近、カーウェイ邸に雇われたばかりのこのメイドは「ここのお嬢様はかわっている」と言いたげに時折、困惑した表情を見せるのだが、当のリノアは、そんなメイドの内心にかまわず、お菓子を詰め込んだ幸せなポケットと一緒に無邪気に玄関のドアを開ける。
「お待たせっ。ロサちゃん、遊びにいこっ!」
仲良しの友達ににっこり、笑いかける。ロサもつられて笑った。ロサは、ショートカットの茶色の髪、茶色の目を持つ少女だった。顔にそばかすがあり、それがかえって愛らしい。リノアとは家が近く、時々、見かけていたら、そのうちに話すようになり、いつの間にか仲良くなっていた。
そして今日、二人が目指す場所はひみつの花畑だった。
「リノアちゃん、できた?」
ロサの問いかけに答えず、リノアは一生懸命、手を動かしながら花冠を作っている。リノアはぶきっちょなのだ。花冠は、いつもロサが早く、しかも、きれいに作ってしまう。今回もそうだった。
「あ〜、リノアちゃん、あみかたおかしいよ」
「できないよ!もう!どうしてできないの、ロサちゃん、きれいに作れるのに、いっつも、リノアだけ〜」
リノアは半べそをかく。
「なくな!ロサが、なおしてあげるから」
ロサは、リノアと同じ年なのだがリノアに対してお姉さんぶった態度をよく取る。そしてリノアはといえば。
「ロサちゃん、リノアよりなんでも出来るね、なんでも知っているね。そんけいするよ」
大真面目にその関係を受け入れていた。
「ほら、できた。はい、リノアちゃん」
きれいに作った花冠を手渡され、リノアは大喜びで受けとる。
「うれしい!!ロサちゃん、ありがと」
二人でひとしきりはしゃいだあと、ポケットの存在を思い出す。
「ねぇ、お菓子たべよう。リノア、いっぱい、もってきたの。ほら!」
はちきれるほどパンパンになった二つのポケットの中、さきほど食堂からすくねてきたチョコレートやキャンディがいっぱい詰まっていた。そのまま、おやつの時間になった。
「リノアちゃんのパパ『ぐんじん』なんだよね?ロサのパパが『ぐんじん』なんかろくでもないから嫌い、といっていたよ」
リノアは、目をぱちくりさせた。