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月の夜話

6

その夜遅く、父親が帰ってくるのをリノアはずっと待っていた。いつもなら先に眠ってしまうのだが、その日はがんばって起きていたのだ。
「リノア、どうしたんだ?こんなに夜遅くまで」
「パパ!!」
リノアは帰ってきた父親に抱きついた。
「パパ、どうしてロサちゃんのパパが捕まるの?どうして連れて行っちゃったの?おかしいよ。ロサちゃんにパパを返してあげて」
「ロサ?」
フューリは眉をひそめる。娘の遊び友達にはそれほど詳しくはないのだ。
「きしゃ、のパパだよ。ほら、お花が咲いているあのお庭の」
「ああ、あの。お前、あの男の娘と知り合いだったのか…」
フューリは驚きの声を上げる。リノアは再三、促す。
「悪いがリノア。お前の頼みでも、それはきけない」
「どうして!」
「悪いことをしたからだ」
「おじさん、悪くなんかないよ!リノア知っているもん!」
フューリは黙った。そしてしばらく経ったあと、静かに告げる。
「そうだな、リノアにとってはいい人なのかもしれない。でも、ガルバディアにとっては、悪い人なんだ」
リノアは尚も一生懸命言い募る。だが、フューリは首を縦には振らない。「もう寝なさい」というだけだった。
「パパの馬鹿!リノア、約束したんだもん!ロサちゃんのパパを、ロサちゃんに返してあげるって!」
「リノア…」
カーウェイはため息をついたものだ。
……今にして思えば、父親には父親なりの事情があったのだろうとリノアは思う。デリングの独裁に対して危機感をおぼえ、幾度となく記事の中で現政府を手厳しく批判する記事を書いていたロサの父親。

「ガルバディアを繁栄に導く為の最善な法律を」の大義名分のもと、法が改正されて以来、それまで自由そのものだった事柄に様々な規制がついた。

言論の自由もその一つだ。その法律から見れば、ロサの父親のやったことは確かに法律違反、反逆罪にあたるのだ。もしかすると父親もその法律に文句があったのかもしれない。だが、議会で可決され法律となった以上、従わなければならなかった。

それらの事情を七歳のリノアが理解するのは難しすぎて―――だからこそフューリも言わなかったのだろうが―――部屋に帰ってベッドの中に潜り込み、ただ、ひたすら父親を罵った。

(どうしてパパはリノアの頼みを聞いてくれないの…リノア悪いことしてないよ?リノアやロサちゃんをいじめるあいつ等のほうがずっと悪いよ?おかしいよ、こんなの絶対おかしい…)
頭がぐるぐるして気分が悪くなって、それでも考えが止まらない。こんなことは初めてだった。

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文責:楠 尚巳