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月の夜話

5

マギーは、怒りを込めて、兵士を睨みつける。
「そんなことしていいんですの?あとで困ったことになるのは、あなた方じゃありませんこと?その子はカーウェイ邸の、カーウェイ中佐の一人娘ですよ」
兵士の顔から余裕が消える。カーウェイ中佐は彼らの上官にあたるのだ。
「…そんな嘘で脅そうとしても…!」
「嘘がどうかはカーウェイ邸に行って聞いてごらんなさいな。ここからすぐですわ」
兵士はさっきまでの強気の態度も吹き飛んでしまった。「ああ、どこかで見たと思ったら」と囁きあい出した見物人達の声が耳に入ったこともあって、相手が嘘をいっているのではないと確信したからだ。

兵士は青ざめた顔でリノアを下ろし自由にした。リノアは兵士にべっ、と舌を出し、ロサ達に駆け寄る。
「ロサちゃん、おばさん、どうしたの?」
「ごめんね、リノアちゃん。今日はロサと遊べないの。いい子で、おうちに帰って」
マギーは優しく言う。
「ママ!リノアちゃんに頼もうよ、パパを連れて行かないでって」
「ロサ…」
マギーは困ったように呟く。ロサはリノアに訴えた。
「この人達がパパを連れて行くっていうの。国にさからったからって。でも、さからってなんかいないよ!こんなのおかしいよ!ねぇ、リノアちゃん『ぐんじん』のパパに頼んで。ロサのパパを連れて行かないでって!」
リノアは目をぱちくりさせた。そのうち玄関から2名の兵士に挟まれるようにロサの父親が姿をあらわした。
「パパ!!」
ロサは泣きながら抱きつこうとするが、両脇の兵士に阻まれる。
「どうして、おじさんを連れて行くの!」
兵士は眉をひそめ、立ちはだかったリノアに何事か言おうとするが、先ほどリノアをぶら下げた兵士が近づき耳打ちをする。耳打ちされた兵士は驚き、リノアに一生懸命愛想笑いを作りはじめた。
「どうして、と申されましても…我々は上層部よりブライアン・モームを逮捕せよ、命令されただけでして。お嬢さんの父上のほうが詳しく知っているものと思われます」
「うそつき!リノアのパパそんなこと言ったりしないよ!」
「い、いや、あのですね…参ったな〜。とにかく連れて行かなくてはならんのです。連れて行かなくては我々が怒られます。間違いだというなら、カーウェイ中佐から直接命令を頂かないと、いかんのです」
なお喰らいつこうとしたリノアに静かにロサの父親が制止する。
「いいんだよ、リノアちゃん。こうなるんじゃないかとおじさん覚悟していた。この人達だって仕方なくやっているんだ。リノアちゃんのお父さんだって立場もあるんだろう。困らしちゃいけないよ」
それでは、と兵士は敬礼し、ブライアンを連れてジープに乗り込み走り去った。
「なんとねぇ。ここのご主人が。人間、裏じゃ何やっているかわからんものだ」
「ま、捕まってよかったじゃないか。それにしても、ガルバディアの繁栄に反対するなんざ、やっていることが理解できねぇよ」
そんな、見物人の囁き声が聞こえる。
わっ、と母親にしがみつき泣き出したロサを見て、リノアは言葉が見つからなかった。

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文責:楠 尚巳