本文へジャンプ | FF8

月の夜話

3

「なぁに?ろくでもないって?」
「さぁ…数字のろくがでないから嫌いってことじゃないのかな?」
ロサも首をひねる。
「ロサちゃんのパパとリノアのパパってカードあそびしてるのかな?ぐんじんのパパとすると6が出なくなるの?」
「ロサはサイコロのほうだとおもうよ。カードは数字が4つあるから、6がたくさんでるけど、サイコロだったら、6がでないときいっぱいあるじゃん」
「ロサちゃん、頭いい!」
疑いもせず賞賛したリノアに、得意そうに、ロサは胸をはった。
「だって、ロサのパパ『きしゃ』だもん。このくにをとびまわっているんだよ。パパいつもロサにじぶんの頭でかんがえなきゃだめだ、っていうもん」
「リノアだって、じぶんの頭で考えてるよ?ほかの頭でかんがえることなんかできるの?リノアは、パパの頭でかんがえられないよ?できたら、すっごくリノアもあたまよくなってべんりだけどさ」
リノアも理屈をこねたがるところがあるらしい。ロサは、それでこそ友達、と満足げに大きく頷く。
「だよね〜、ロサもそう言ったんだよ、パパに。そしたら、いるんだって。めいれいにしたがうばかりで、自分のあたまでかんがえないひとや、しょうらいこの国がどうなるのか、とかかんがえなくって、じぶんのことばっかりで、他人を不幸にするひととか、たくさんいるんだってよ。子供の中にはいないけど、おとなにはいるんだってさ」
ふーん、とリノアは一応納得できたふりをする。七歳の子供には難しい。
「でね、『ぐんじん』も他人のいう事きいてばっかで、じぶんの頭でかんがえないひとたちなんだって」
リノアは、この言葉に反発した。
「ちがうよ!リノアのパパ、自分の頭でかんがえるよ!リノアにやさしくしてくれるもん。リノアがおねだりしても、ダメだっていうときあるもん」
大好きなパパを貶められたリノアは、ぷっと膨れる。
「べつに、リノアちゃんのパパのことなんか、いっていないよ」
ロサはチョコレートをほおばった。リノアも同じようにチョコレートをほおばる。口の中に広がる甘い魔法に、リノアの不機嫌さも、瞬時に治り、亀裂しかかっていた二人の仲もあっけなく修復する。その日も日暮れまでずっと花畑で遊んで別れた。次の日も、その次の日も。

……ずっとこんな日が続くと思っていた。だが、この頃既に、3年前大統領に就任したビンサー・デリングによる恐怖政治が幕を開けており、ガルバディアでは、政治犯や思想犯に対する弾圧が激しくなっていたのだ。

デリング大統領の唱える「ガルバディアを世界最強の国に」の方針のもと、強引ともいえる数々の政策が行われる一方で、それに危機感を覚え、異を唱える政治家やジャーナリストが次々と捕らえられていく。D地区収容所に送られる彼らの運命は凄惨たるものだ。それでもこの時は多くのガルバディア市民がデリング大統領を熱烈に支持しており、「ガルバディアが強国になろうとしているのに何故、邪魔をする。足を引っ張るあいつ等らが一番邪魔だ」の意見が大多数を占めていた。政府によって捕らえられる政治犯や思想犯に同情する者は少ない。だが、それらの事情も今のリノアには関係なかった。友達と遊ぶことのほうがずっと大事だったのだ。

そう、関係なかった。あの日までは。

次のページへ

前のページへ戻る
ページの先頭へ戻る


文責:楠 尚巳