それは満月の夜だった。
月の光がわずかに遮るカーテンの隙間からほんのりと差し込んでいる。毎日繰り返されるハードな訓練に耐えているガーデンの生徒達も夢の中の住人となっている真夜中、この時がガーデンが内が一番静かになる時間だ。
そんな真夜中に、スコールは誰かの声を聞いたような気がして目を覚ました。気のせいだろうかと聞き耳を立ててみれば、それは決して気のせいではなく、声は側(そば)で眠るリノアから聞こえてきていたのだ。
スコールは体の向きを変え、リノアを見やる。彼女は眠りの中にいたものの、その表情も時折聞こえる声も苦しそうだった。なにやらつぶやいているようなのだが、なんと言っているのかまではスコールには聞き取れない。
(夢を見ているのか?)
うなされて怖い夢を見ているとしか思えない。起こしたほうがいいのだろうかと躊躇いながらスコールは半身を起こしリノアの額を優しく撫でる。それでもリノアの悪夢は止むことはない。
「リノア…おい、リノア」
見ていることが出来ずにスコールは名を呼ぶ。苦痛を伴う夢なら断ち切ってやらなければ、と。
「リノア、起きろ」
激しく揺さぶったスコールに、まるで合わせるように、リノアは跳ね起きた。その激しさと勢いのよさはスコールを驚かせるに十分だった。
「あ…ここ…?」
一瞬、今が夢か現実か判断がつかなかったのだろう。リノアは、部屋の一点を見つめたまま身動きしない。ただ何かを思い出すように目だけを動かしている。
「どうした?うなされていたぞ…」
リノアは、スコールの言葉で我にかえった。自分が夢を見ていたことに気づく。
「あ、ごめんね。起こしちゃったんだ。スコール、昼間、疲れてるのに…」
「いや、それはいい。謝ることでもない。怖い夢でも見ていたのか?」
「うん…」
リノアは、あいまいに返事を返し、それっきりなにも言おうとしない。月明かりのお陰でほのかに見えるその表情はどこか哀しげだった。
「どんな夢だったんだ」
スコールは、促してみる。
「なんでもないの、だだの…」
リノアが言い終わらないうちに、スコールは彼女を引きよせ、リノアはあっけなくスコールの胸の中へ倒れ込んでしまう。
「どんな夢を見ていたんだ?」
隠そうとして心に偽りの鎧をかぶせる準備をしかけたというのに。言い終わらないうちに、準備が終らないうちに、行動に出たスコールのせいで、もともと嘘をつくことが得意ではないリノアは見事に偽ることに失敗してしまう。それでなくともスコールの胸の中はリノアが一番安心できる場所なのだ。またたく間に心が裸になる。リノアはぽつり、と自分の見た夢を話し出した。
それは忘れられない遠い昔の思い出―――