「おっそいな〜ロサちゃん、どうしたんだろ」
リノアは窓辺で門のところを見る。今日も、ロサと遊ぶ約束をしていたのだ。お迎えにくるという約束だったのだが、時間を過ぎてもロサは姿をあらわさなかった。
遊ぶとき迎えにくるのはいつもロサで、リノアは家で待っている側だった。「わたしのほうが、迎えに行くの!!」と迎えに来たがるロサにリノアは素直に従っていた。
「でも、今日はこないし…リノアがお迎えに行ってもいいよね。遊ぶ時間なくなっちゃうもん」
背伸びして窓の外をずっと見ていた為、手足もしびれてきていたのだ。リノアは我慢できずに、ロサの家まで行くことにした。
リノアは一生懸命両足を動かし、こじんまりとした一軒家まで来る。そこがロサの家だった。小さくはあるが、庭もよく手入れされていて、品のよい家だ。
「あれぇ?」
ロサの家の前には、軍マークの入ったジープが止まっており、人だかりが出来ている。
リノアが見慣れている戦闘服を着た、数人のガルバディア兵もいる。どうしたんだろ、と思いながら、見物人を押しのけ、門から呼びかける。
「ロサちゃん♪あっそっぼ〜」
見物人の視線が一斉にリノアに集まる。しかし当のリノアは、おかまいなしだ。ロサは出てこないし、返事もない。リノアはもう一度呼んでみる。ガルバディア兵が振り返り、その中の一人が近づいてきた。
「取り込み中だ。帰りなさい」
「なんで〜?リノア、ロサちゃんと遊ぶ約束したんだよっ!」
リノアは、いーっ、と睨み返す。
「可愛げのないガキだ…いいか?おれたちゃ、えらい兵士なんだぞ。帰れといったら、帰れ」
「やだ!!」
リノアも負けじと言い返す。
「リノアちゃん!!」
ロサが家から飛び出してくる。真っ赤に目がはれているのに、リノアはびっくりした。
「こら!外に出るな!」
と、玄関先の兵士がロサを捕まえる。ロサは手足をばたつかせ、もがくがどうにも鍛えられた大人の力には太刀打ちできない。
「リノアちゃん!パパを助けて!リノアちゃんのパパも『ぐんじん』でしょう?ロサのパパを連れて行かないで、って言って!」
リノアはわけがわからない。それでもロサが泣いていて、悲しいことだけはわかった。だから、憤慨する。
「こらぁ、そこのばか!ロサちゃんをはなせ!!いじめるな!!」
七歳の子供に馬鹿呼ばわりされた兵士は、こめかみを引くつかせる。
「怖いもの知らずのくそガキが。どうやら軍人の娘らしいが…いいか、俺達の仕事の邪魔をすると、お前の父親が軍をクビになるぜ。俺たちゃ、大統領じきじきの命令で、政府に逆らう悪い奴を捕らえているんだからな」
兵士の優越感に満ちた説教もリノアには通じなかった。自分の脇にたつ兵士の間をかいくぐり、庭の中に入る。
「このガキ!!」
捕まえようとするが、どうにもすばしっこく捕まえられない。リノアはなんとかロサの前まで来て話そうとした瞬間、背後から吊り上げられる。
「離してよ!!このオタンコナス!!」
手足をばたつかせて抗議する。
「躾の悪いガキが。少し仕置きが必要だな」兵士がリノアに手を上げようとした瞬間、
「やめてください!!」
玄関から一人の女性が飛び出してきた。ロサの母親のマギーだ。ロサは母親に向って駆け寄り、泣きついた。そんな娘を撫でながら、
「あなた方は、こんな小さな子供達に手を上げるんですか!その子も…娘の友達も離してください!」
毅然とした態度に一瞬兵士達はたじろぐ。
「お言葉ですけどねぇ、奥さん。逆らって邪魔するのは、そちらのお子さん達ですよ。お仕置きぐらい当然でしょう?ま、あなたのお子さんはいいとして、このガキはねぇ…礼儀というものを教えてやらないと。そのうち、お宅の旦那のように反逆者になる恐れがありますからな」
逆らうとどうなるのか、今のうちに教えてやるのがこのガキのためですよ―――
そう言い、リノアを吊り上げている手をわざとぶらつかせる。「離してよ!」と騒ぐリノアの様子をあきらかに楽しんでいた。