スコールは走りながら、周囲に出没したラルドを、面白いように倒していく。
ラルドは、堅い殻におおわれていて剣ではほとんどダメージを与えられないのだが、そこはレベル100のSeeDだ。ガーディアン・フォースが最大限に引き出してくれる戦闘能力は、慣れないソードでも一撃である。
ラルドといえどもひとたまりもない。
「次から次へと……!」
きりがない。しかし、こうも人間とモンスターが入り乱れていては、連続剣で一掃することもできない。
(待てよ……確か)
グラナルドが絶滅寸前まで駆除された理由———それをスコールは思い出した。
実行すべく空中に視線をさまよわせたものの、どうやっても、ソードではグラナルドには届かない。
(せめて、リノアがシューティングスターを持っていてくれていたらな)
やがて、スコールは、頭上、槍が飛んできた方向を定めて、走り出す。
どうやったら発射台に行けるかと、道行くひとに尋ねながら、城壁の上へと続く階段を駈けのぼった。
辿り着いた先では無数の兵士達が、木製の機械に槍をセットしては打っていた。
スコールの姿を見つけて、兵士があわてて制止する。
「きさま!どこから入ってきた!」
「この作戦の指揮をとっている奴はどこにいる?」
命令するような言い方に兵士はむっとした。
「言え!」
あまりの迫力に逆らうこともできず兵士は後ずさりする。
「……責任者は私だが」
兵士の背後から静かな声が響いてきた。
黒みがかかった赤色の短い髪にグリーンの目をした青年だった。
歳はスコールよりもやや上というところだ。乱入者を前にしても動揺もなく落ち着きはらったその態度が、まぎれもなく彼が指揮官であることを教えた。
「なんの用だ?」
「あるグラナルドを探し出し、そいつを狙って打って欲しいのです」
「なんのために?」
スコールの名前すら聞かず、返答は短い。今やるべきことを十分に心得ているのだ。
「グラナルドは珍しい習性を持っています。群れの中にボスが存在し、ボスが倒されると、勝手に喧嘩をはじめて同士討ちし出すんです。ボスさえ倒せば彼らは自滅する」
青年は軽く目を細め、黙ったまま品定めするようにスコールをながめた。
だが、それも数秒で、
「来い」
嘘でもやってみる価値はある、と即座に判断したらしかった。
あとについて、もっとも見晴らしのいい場所に立った。なんの障害もなくグラナルドでおおいつくされている空全体が見渡せた。槍はグラナルドめがけて放たれ続ける。
やがてスコールの視線は、一匹のグラナルドの上に固定された。外見上の違いではない、本能的に群れの長であることを確信する。
スコールの横で青年の静かな声が響く。
「あいつだな」
「あなたもそう思いますか」
「思うとも。どこから見ても悠長にかまえていて生意気だ。まるで鏡をみているようで、腹が立ってくるね」
スコールはわずかに笑った。
おだやかそうな外見に似合わず、口はそれなりに悪いらしい。
「射手、あのグラナルドを狙え」
命をうけ、いっせいに槍は放たれたものの、グラナルドの素早い動きに翻弄されなかなか当たらない。
そのうち各機、足並み揃えて攻撃をするように命ず。
逃げた方向へ即座に槍が飛んでくるように時差攻撃することを命じたのだ。
どの方向へかわしても襲いかかってくる槍に、逃げ場を失ったグラナルドは、胴を貫かれ、ついで下からきた槍に頭を貫かれ、地上へと落ちていった。
その瞬間、グラナルド達は、動きがぴたりととまり、やがて、お互いに体当たりし出す。
しまいには地上に投げ落とすつもりだったラルドを、お互いの身体へぶつけはじめた。
「なんとも素晴らしい眺めだな。下手な芝居を見るより迫力がある」
青年の声には感嘆しつつも、からかうような響きがある。
どんな時にも余裕の心を失わない性格らしかった。
スコールにとってもはじめて見る光景だ。次のボスの座をめぐって本能的に争う、グラナルド同士の戦いである。眺めているだけで瞬く間に数が減ってゆく。
これで地上のラルドを一掃すれば終わるだだろう。
「俺はこれで。まだ下にラルドがいるでしょうから」
スコールは一礼し、その場から走り去ろうとした。だが、
「待て」
すかさず呼び止められて、振り返ることになる。
「私はまだ名前を聞いていない。名乗らずに去るつもりか」
そう言われてスコールは、はじめて青年を冷静に観察する余裕を与えられた。
端正で繊細な顔立ちにもかかわらず、何人も逆らわせないような力強さがあり、ごく自然にそれが似合う男だった。
なによりも人を惹きつける独自のオーラをまとっている。
(こいつ…だだの指揮官じゃないな……)
たぶんこの国でも屈指の———
「どうした?」
問いかけた青年に、
「……おれもあんたの名を知らない」
ふだんから言葉の少ないスコールが言ったのはそれだけだった。
周囲の兵士たちが、呆れたような顔になり、やがて激怒して真っ赤になった。
周囲の反応にかまわずに、青年は快活に笑う。
「ははは。そりゃ、失礼したな。わたしの名前はルナール、という」
「すると…あんた…いや、あなたが皇帝陛下ですか?」
「一応、今はそうなっている」
今後はどうなることやら———ふざけたような言い方が、かえって、この男の自信を感じさせた。
「で、君は誰なんだ?」
「スコール……スコール・レオンハート」
これが、ふたりの騎士の出会いだった。
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