翌朝、チョコボを一頭調達し、出発した。
所持金や日数を検討した結果、チョコボ一頭に荷物をのせ、自分達は歩くのがよいという結論になった。
リノアはといえば、着せてもらったルナール帝国の衣装に大はしゃぎである。
この時代の女性服は、例外なく戦いには不向きなデザインだ。
スカートの裾が長く、つま先まですっぽりと覆う反面、胸もとは大胆に開いている。
そして頭はベールでおおい、強い太陽の光を柔らかく遮るのだ。
着るといってきかないリノアに、そんな格好で戦えるわけがないだろ、とスコールは反対しようとしたのだが、着せてもらってあらわれたリノアの姿が、あまりにも似合っていたので、たちまち前言を撤回し、黙って従うことにしたのだった。
もっとも最初は、転ぶわ、つまずくわで散々だったのだが。
それでも「この服を着こなしている素敵な自分」というあこがれが勝ったのか、怪我にもめげず辛抱強く着続けて、いまやあぶなげなく歩くことができるリノアだった。
「あっ、あれじゃない?」
遠く指さしたリノアに、スコールは無言で頷く。
城壁に囲まれた帝都にそびえる天高く巨大な皇宮は、遠目からでも―――いや、遠目だからこそ、はっきりと見えた。
失われた文明、レナーン帝国の都。
今、それを目の前にして、普段、感動することが少ないスコールでさえ、胸がときめく。
もしかして、という予測を込めてリノアをみれば、やっぱりわき上がる感情を隠そうともせず、うるうると大感動している。
「オーディンみたい」
リノアの表現に、スコールは感心する。
巨大でどっしりとかまえた、力強い建築……たしかにオーディンだ。
(帝都まであと丸1日ってとこか……)
そろそろ帝都へ入る方法を考えなければ。
帝都は城壁に囲まれ守られており、当然、検問ぐらいしているだろう。
ふと、大きな木と岩陰を見つけ、今日はもうここで休もうとリノアに声をかけようとした時、近くで砂煙があがった。
見れば三体のダブルハガーに、ひとりの背の低い、学者風の老人が対峙していた。
その人物は、ダブルハガーに取り囲まれながらも、怖がる様子もなく、どこかに逃げ道はないかと冷静にあたりを見回している。みかけによらず、ずいぶんと胆力のある人物らしかった。
「スコール……あれ」
「ああ、お前はここにいろ。俺ひとりで十分だ」
スコールは、言うと同時にガンブレードを抜きはなって駈けだして行く。
やがて、ダブルハガーがスコールのひとふりごと、次々と倒れ出すのに、そう時間はかからなかった。
今のスコールにとって世界の大地に散らばるモンスターは、ハエを追い払うのにも等しい。
ガーディアン・フォースや、ウェポンのような未知なるモンスターを除けば、ほとんど敵なしといっても良かった。
老人は、スコールの軽やかな攻撃でモンスターが面白いように倒れていく光景をみつめ、呆気にとられている。
数十秒後、すべてを終わらせてたスコールに老人が声をかけた。
「いや、若いの。助かりましたぞ。帝都まであと少しというところでモンスターよけのお札がなくなってしもうてな」
老人は、ブルントと名乗った。やはり学者なのだそうだ。
「帝都へ……行かれるのですか?」
スコールは聞いてみる。
ブルントが帝都に入る方法を知っているのであれば、スコール達にとっても天の助けである。
「ふむ、ということは、おぬしも帝都へいかれるのかな?」
「はい」
スコールは頷く。
「ほう、ついとるわい。わしも帝都に用があるのじゃ。連れて行ってくれんかの?」
「それは、むしろこちらがお願いしたいほどですが……」
連れがいるということを相手に知らせるために、スコールは視線をリノアのほうに移す。
気づいたリノアが、チョコボを連れて近くにやってくる。
ブルントは、スコールとリノアを交互に見比べ、
「ふむ。かわいいの。おぬしの奥さんか?」
スコールとリノアは顔を見合わせた。
この時代は平均寿命が短く、それゆえ結婚は早い。
女性なら16歳になるかならないかで結婚してしまう。
リノアは顔を輝かせて、
「おじいさん、わたし、スコールの奥さんに見えるの?見えるの?嬉しい!」
リノアが隣でぴょん、ぴょん飛び跳ねて、はしゃぎ出す。
「お前……また……」
人前ではやめろとあれほど言ったのに———スコールが額に手を当てた。
ブルントが笑い出した。
「お嬢さんのその気性、似とるのぉ……」
懐かしいものに出会ったと言わんばかりに目を細めた。
「誰にですか?」
「子供の頃のルナール殿下に、じゃよ」
数秒考え、スコールは驚きの表情を浮かべる。
あまりにも自然に言うので聞き逃すところだった。
「皇帝陛下ですか……?」
「ほう、知っておるか。ま、当然だがの。そうじゃ、もう殿下ではない、陛下になられたのじゃった」
かっかっかと笑うブルントを見つめながら、リノアは心中複雑そうだ。
「ねぇ……なんで子供の頃なの……」
こっそりとスコールに聞いてくる。
「ああ、そりゃ、あれだ……」
スコールはそれ以上、賢明にも言わなかった。