宙に浮かぶ、さ迷う魂。叫ぶ従者達を無視してスコレットをじっ、と見つめる。
スコレットは、「それ」に向かい面倒くさそうに問うた。
「あんた、何をしているんだ?」
スコレットの目には軽蔑の光。
(スコレット!おお、わが息子よ。父の声をききつけ、きてくれたんだなっ!)
「…なぜ、生霊なんかになって遊んでいるんだ、と聞いている」
スコレットの声は冷たい。
(いやー実は、レインルードに会おうと思ってよ。体から魂を切り離す術とやらを会得したんだな〜)
「で、会えたのか…?」
(それがさ〜全然あらわれてくれないんだよ!なんで〜、レインルードーっ、俺を愛してはいないのかーっ。あっちの世界でいい奴が出来て浮気したのかーっ!)
無言でガンブレードを構えたスコレットに、
「出るぞ!避難しろーーっ!」
三人のぼやき従者達、素早くその場を離れていく。
「エンド・オブ・ハート、の最初!!」
風が巻き起こる。ただそれだけで、国王の生霊は風の渦に乗り、星の彼方へと消えていった。
「感謝しろ。それだけ飛べば、会えるかもしれないぞ」
「終わりましたので?(なるほど。こういう使い方があったんかい)」
感心しながら、避難していた従者達がノロノロと姿を見せる。
「ああ、終わった」
「…陛下はどうやって生霊になったんでしょう?」
「さぁな、あいつの考える事はわからん。さて、帰るぞ」
横にいた、ぼやき従者2が茂みに足を取られて転んでしまったではないか。どうやら運動神経が鈍いらしい。
「うわっ!いたた…」
「…なにをやっているんだ、大丈夫か?」
スコレットはかがみこみ手を差し伸べる。
「は、はい。(スコレット様はこういう時は優しいんだよな)」
感激して、従者2はスコレットの手を取る。茂みの間がゆれ、姿をあらわしたのは、見知った人物。
「スコレット様?」
オフィーリノアだった。
「オフィーリノア?どうしたんだ?」
今日、会う約束だっただろうか?とスコレットは首をかしげてしまう。
「やっぱり、やっぱり、父の申したことは本当だったのですね…」
オフィーリノアは、ぶるぶる震える。
「なんのことだ?」
父という言葉でスコレットは不安を抱く。スコレットは、オフィーリノアの父のフューリーニアスと仲が悪い。なにかというとオフィーリノアに、
「スコレット様の言葉を信じるな。あの方のお前は身分が違う。どうせ、遊びに決まっておる。よいか、恋文などもらっても返事をするでないぞ。絶対に口を利いてもいかん」
口酸く吹きこんでいた。
「ひどい、ひどい、スコレット様。私というものがありながら、従者と…」
「はぁ?」
わけがわからず、間の抜けた返事を返すスコレット。
「とぼけないで!手なんかつないで!こんな真夜中に秘密の場所で!恥知らず、恥知らず!」
(手なんか繋いでって…これか?)
確かに従者2と手を取り合っているが。
「ひどい、ひどい。でも、でも、わたし、わたし、負けない!」
オフィーリノアが突進してくる。そして、スコレットに抱きついた。
「お願い、お嫌いになったのなら、その方がお好きなら、スコレット様の口からそうおっしゃって。そしたら、わたし、もう二度とお側には参りません。おっしゃらなかったら、ええ、ええ、ずっと、ずっと、こうしていますとも!」
スコレット、しばらく無言。やがて、抱きついているオフィーリノアをスコレットは抱きしめ返す。スコレットはくすくす笑い。
「相変わらずだな、オフィーリノアは。俺は嫉妬ぶかい。俺は悩みやすい。俺は諦め慣れている。そして恋する乙女の気持ちに鈍感だ。あのまま無言で泣いて去って行く淑女なら、おそらく俺とは、上手くいくまい。どのような恋も途端にこじれて、沈んでしまう。可愛いオフィーリノア。君の父上に、わが愛娘を一生愛し続けられるのか、と問われれば、俺は迷わず言おう。オフィーリノアである限り、我が思いにゆるぎなし、と」
スコレット、ますますきつくオフィーリノアを抱きしめた。
「…今、伝えよう。結婚してくれ、オフィーリノア」
「スコレット様…嬉しい」
オフィーリノアも負けじとスコレットを抱きしめ返す。
それをじいぃぃっ、と見ている者達がいた。ひそひそ声でささやき交わす。
(なぁ、俺達がいること忘れてるんじゃないか?)
と、ぼやき従者1。
(らしいな…だけど、どう考えたら、俺とスコレット様の仲を疑えるんだ?オフィーリノア様も、どっか抜けているような)
と、ぼやき従者2。
(それでも、こじれないんだからいいんじゃないか?めでたし、めでたし)
と、ぼやき従者3。
その時、スコレットが何かを思い出したように、オフィーリノアに問いかけた。