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スコレット

2

しばらくすると茂みから可憐な少女が姿をあらわした。黒い髪に白い肌、ブルーのドレスも初々しい。少女は召使いにニコニコ笑顔を向けた。
「大変なことになっているようですね」
「おお、オフィーリノア様!お助け下さい」
「困った王子様。そこがいいんだけど…もう、大好き♪」
ぽっ、と顔を赤くしたオフィーリノア。それを見た召使い、思わず、顔をひきつらせてしまう。オフィーリノアにはスコレットの全てがカガヤいて見えるらしい。
「スコレット様。何をお悩みですの?」
無邪気な笑顔で声をかけてきた少女に、スコレットの表情が和らいだ。
「オフィーリノア…どうして、ここへ?」
「スコレット様が、深くお悩みだ、と知らせてくれた者がいましたの」
「それで、心配してここへ?」
「ええ、ここへ」
「俺を?」
「ええ、あなたを。他に誰がいまして?」
スコレットは笑顔を見せ、オフィーリノアを膝の上にすわらせる。
「聞いてくれ、オフィーリノア。また、あの愚か者が…父が、母を愛しているゆえということは分っているのだが…」
オフィーリノアは愛らしく頬を膨らます。
「まぁ、お父様のことを愚か者なんて申してはいけません。真の愛をご存知の方が愚か者?いいえ、その言葉は愛を知らぬ者にこそお使いになって下さいまし」
「わかった、俺が悪かった。怒った顔も可愛いな…オフィーリノアは。つまりだな、父が最近ますますひどくなったのだ」
スコレットはため息をつく。
「…母がこの世を去って十数年。今でも肖像画に向かって、むせび泣く、頬を摺り寄せるの行為を繰り返しているのだが、最近ますます酷くなった。得たいの知れぬ者達の口車にのせられて、国王としての義務も責務も忘れ、父はすっかり妄想ごっこに夢中になっている」
「亡き王妃様との?」
「ああ、そうだ。わが父ながら、情けない。あのように虜になって。頭痛がする…」
スコレットは、頭をふった。
「…スコレット様だって情けないですわ」
スコレットは驚き、オフィーリノアをのぞきこむ。オフィーリノアは優しいが、時々耳の痛いことを言う。彼女には嘘がない。
「だって、こんなところで愚痴をこぼしていらっしゃるんですもの。なんの役に立ちまして?お父様をお諌めするなりすればよろしいではありませんか?国王が国政をほったらかしにしているのですもの、困っている人達だって大勢いますのよ。ほら」
促した先には、さきほどスコレットに声をかけた召使が立っており、一生懸命、こくこく頷く。国王があんな状態になって、もはや書類は山積み状態、スコレットに代理で勤めてもらおうにも、このありさまで、臣下達は悲鳴を上げていた。残る手段はオフィーリノアの説得だけ、とあって必死の形相。
スコレットは苦笑した。
「わかった…オフィーリノアのいうとおりだな。悩んでいても解決にはならない。出来る事はしなくては」
オフィーリノアの頬に口づけすると、スコレットは彼女に別れを告げ、城内へと戻っていった。
「おお!オフィーリノア様、ありがとうございまする!」
「どうぞ、お気になさらず。憂鬱そうなスコレット様をごらんになるのは私とて絶えられませぬ。スコレット様には凛々しいお姿が一番似合います」
「さようでございますとも。しかし、なぜああも暗いのか…」
「な、ん、で、す、っ、て?私のす、て、き、な、スコレット様が、どうかしまして?」
オフィーリノアが、ぴしっ、と青筋を立てる。恋は盲目。オフィーリノアにスコレットの悪口は通じない。
「あ、はい、はい、すばらしいお方でございますとも」
「そうでしょう、そうでしょう」
オフィーリノアは、たちまち天使の笑顔。
召使いは心の中で、深く深くため息をついた。

その夜、ぼやき従者三人組みは通称秘密の場所と呼ばれる所へやってきた。
「ここか?」
「おう、ここだ」
「本当にあらわれるんだろうな」
「たぶんな」
幽霊登場。
「うわーっ!本当にあらわれた!」
「こっちに来るな!」
「恐いよーーっ、おかあちゃーん!」
三人はあっけなく逃げ去ってしまいましたとさ。

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文責:楠 尚巳