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分岐点

5

ガーデンへ帰るなり、スコールは自分の部屋にリノアを引っ張っていった。途中、生徒達の好奇の目が二人の上に注がれる。例の掲示板のことを知っている生徒達なのだろうがスコールは無視するばかりだった。
「入れよ…」
リノアはわけがわからず、スコールの部屋に入り、ちょこんとベットサイドに腰掛けた。部屋が狭く、二人で座って話しが出来るところといったら、ここしかないのだから仕方がない。

スコールは、机の引き出しをあさる。やがて奥から目的のものを引っ張り出した。
「ほら」
カードをリノアの前に差し出した。
「なに?これ?」
「お前の預金カードさ」
リノアは目をパチパチさせる。わけがわからなかったのだ。自分の預金カードなんていわれても覚えがない。
「…ラグナから預かっていた」
「ラグナさんから…?どうして?理由もないのに…」
困惑するリノアにスコールはため息をついた。
「お前、ずっとエスタの研究所でタダ働きしていたろう?おかしいとは思わなかったのか?」
「タダ働きなんかしてないよ。助けてもらったのは私だもん。おかげで魔法コントロール出来るようになったし。みんなが私のために協力してくれたんだよ」
それなのに、なんでお金もらうの?不思議そうに聞くリノアにスコールはもう一度ため息をつく。
「あのな…体中のあちこちに機械をつけられたり、何度も同じ実験を繰り返したり、お前に魔法をコントロールさせる為だけにしたと思っているのか?お前が連中の研究に協力したおかげで、エスタの魔法研究も格段に進歩したんだぞ。報酬ぐらい当たり前だろうが」
「そりゃ、知ってたけど。でも、私、魔女だもん。それぐらい協力するの当然だよ」
「それは、お前がお人よしだからだ」
スコールはきっぱりと言い切った。
「…とにかく、受け取っておけ。これは、エスタがお前に支払った正当な報酬だ」
「でも…それに、どうしてスコールが持っているの?」
「お前がそんなんだから、ラグナが俺に話をしてきたのさ。お前の名義で口座を開いて俺が預かっていた。分かったか?お前のことだ、そのうちにやりたいことが出てくるだろうと思ったしな…その時、渡すつもりだった…金を必要としている今なら受け取れるだろう?」
だから、ほら―――半ば押し付けるようにリノアにカードを差し出す。リノアはカードを手に取った。少しだけ目が潤む。
「…ありがと…」
リノアの様子を見ながら、
「自分の金を返してもらって感激するって奴はめずらしいな」
スコールは苦笑した。
「スコール。スコールは反対しないの?」
「なにをだ?」
「だから、私が…行きたいなって思ってること…」
「別に。反対する理由もない。大学へ行くのが反対するようなことか。それとも反対して欲しいか?」
逆に訪ねられリノアはぶんぶん首を横に振った。
「それよりもリノア…みんなに、ちゃんと言うんだぞ」
「だから、それは!」
「いいや、言わなかったらきっと皆、怒る。俺だってこのままお前がバイトと勉強両立させて大学合格したとしても、絶対に怒った。こんな大事なことをなんで黙ってやるんだ、俺はそんなに頼りないのか、リノアの恋人じゃないのか、絶対そう思う。お前はどうだ?逆に俺がそんなことしたら、やっぱり怒るんじゃないのか?」
「…そっか…そうだよね…うん。私もそう思う」
なんだ―――とリノアは晴れ晴れとした表情になる。元が素直で楽天的なだけに立ち直るのも早い。
「ありがと、スコール。今からセルフィ達に言ってくる!!」
「おい…リノア…」
待て、と言う言葉を待たず、リノアは嵐のようにスコールの部屋を後に去っていってしまった。
(いつものことながら…本当に…)
思い立ったが吉日。あの即断実行ぶりには良くも悪くも感心させられっぱなしのスコールである。

(やれやれ…とにかくこれで一段落だな…それにしても…大学へ行きたいとはな…)
ふと、以前イデアとかわした会話をスコールは思いだす。擬似魔法が誕生したきっかけを訊いた時のことだ。
「…どうして魔女にはこんな生き方しか許されないのだろうって思ったの。アデルは恐ろしい魔女でした。でもそれとて、心の弱さ、魔女であることの哀しさに負けてしまった結果と思えてならなかった。いずれ私もこの力を誰かに渡すことになる。そしてその人にはもっと別の生き方をして欲しい。魔法の仕組みが解明されれば、魔女に対する恐怖も消えると思いました。だから、なんとしてもこの力を解明したかった」
そして、イデアは続けたものだ。
「リノアは理想的な後継者だと思っているわ。あの子なら魔女であるということに縛られることなくわが道を歩んでいけるのではないかと思うの。新しい魔女の生き方を作ってくれるんじゃないかって思うのよ」
自らの心に忠実に生きる生き方こそが魔女には一番難しい生き方だった。魔女の前に平凡な夢や個性など、いとも簡単に押しつぶされてしまう理不尽さ。そんな歴史に終切符が打たれるといい…イデアのそれらの言葉を今、スコールは改めて蘇らせる。

(勉強はいい…問題は、大学側が魔女の入学をすんなり許可するかだが…まぁ、馬鹿正直に言う必要もないか。それに、リノアなら心配することもない)
人は異質な者に敏感な反応を示す。だが、本人の人格形成にその異質さが、深く関わっているからこそ、他者が嗅ぎ取ることが出来るように思うのだ。リノアの場合、魔女であるということが彼女の人格になんら影響を与えてはいない。それゆえ異質さが表にでることがないのだった。そしてこれからも表に出ることがないように思われた。リノア自身が持つ性質に加え、
(影響なんぞ与えてたまるか…)
と固く決意している自分がいるからして。

選んだ以上、リノア本人が苦労するのは仕方がないことだとしても、リノアが望むのならスコールも協力を惜しむつもりはないのだ。いつもリノアの味方であることもスコールが自ら好んで背負っている役目の一つだった。
だから思う。
(あとは、あれだな)
スコールは机に向かい、端末機の電源を入れた。目指す場所は、ガーデンスクウェアだった。

「あれぇ?」
しばらくして、ガーデンスクウェアにアクセスしたセルフィは首をかしげることになる。掲示板の例のやつが綺麗に消えているのだ。リノアから相談を受け、理由を知った今、文句のひとつでも言ってやろうかと思ったのだが…
スコールが何事か書き込んだことがきっかけで、改心したのかどうかは不明だが、パスワードをかけていた生徒が自主削除したらしいということをあとになって知る。だが、なんと書き込んだのか、当のスコール本人はもちろん、見た生徒達も一斉に口を噤み、セルフィは知ることが出来なかった。
その掲示板を見たらしいシュウがセルフィにこっそり言うことには。
「なんだかんだ言って、決める時は決めるんだろう、スコールは。心配することもなかったね」
シュウはくすくす笑う。だが、その内容は、とうとう教えてはくれなかった。

そして、リノアはといえば。学費の心配が無くなったおかげで大学入学資格試験に向けての勉強に専念することにしたらしい。
結果が出るのは、遠くて近い先の話。

- FIN -

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文責:楠 尚巳