(なんだよ…一体…俺はリノアに無関心じゃない…リノアが俺に内緒にしているんだったら聞かなくたっていいじゃないか…信用していて何が悪い…)
スコールはバラムの街へ車を走らせながら、言い訳がましく呟く。
なにはともあれ、こうなった以上はリノアを探さなくてはならない。一緒に帰らなければそれこそ何を言われるかわからない。ここで、昨日の女生徒から聞いた話が役にたつ。
(バラムのホテルとか言っていたな…)
スコールは街の入り口にある駐車場に車を止め、バラムホテルへ向う。はたしてホテルにリノアはいた。
リノアがいたのは、バラムホテル内にある喫茶店だ。客ではなく、従業員として。あっさり居場所が判明したのも、
「リノア?ああ、最近うちで雇ったあの子ですね。お客さんもファンですか?あの子目当てで来てくださるお客さんが増えましてね。お店は大繁盛ですよ。シーズンオフで宿泊客のいない今、大助かりですわ」
と、名前を聞いただけで、ご丁寧にフロントが答えてくれたからだ。あまりにも、労せずして居場所が判明してしまったことに拍子抜けしたものの、一方でやっぱりリノアはわかりやすい、と妙に感心しながら、スコールはホテル1Fにある喫茶店に入り、コーヒーを注文した。夜はバーに変身する店だけあって重厚で落ち着いた雰囲気がある。広くも狭くもない店内を見渡し、目当ての人物を探しあてる。リノアは別テーブルの客から注文をとっているところだった。スコールがじっ、と視線を注いでいると、やがてその視線に気づいたのかあたりを見回し始め、スコールと視線がぶつかり、白いエプロン姿のリノアは、瞬時に、硬直したのだった。
「リノアちゃーん、こっち。注文お願い」
明らかにリノアに対して好意を持っているらしい向こうテーブルの客が手を振る。
(喫茶店で指名なんかするなよ…)
不愉快になったものの、小さな港街で、街に住む人全員が知人という気安さの中では無理もないかもしれない。周囲が知り合いばかりであるから自然、心も緩むのだろう。
リノアは、どうすべきか迷っているらしかった。名を呼ばれ行かなきゃ、と思うのと、でも、スコールのところへ行って何か言わなきゃ、という思いがぶつかり合っているらしいリノアの様子に、スコールは手振りで終わるまで待つことを告げる。リノアは頷き、頭を切り替え、再び忙しく立ち回り始めた。