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分岐点

1

「スコール司令官、知っていますか?」
執務室に向う途中、スコールが、バラムガーデンで数人の女生徒にそう呼び止められたのは、夏も終りの頃だった。

「何をだ?」
めんどうくさそうに返事をしたスコールに、女生徒達はいかにも嬉しそうである。
「知らないんですか〜リノアさんの事」
くすくす笑いが漏れた。
「だから、なんだと聞いている。用件を早く言え。俺は忙しい」
口調がきつくなったの感じて、女生徒達は、慌てて言いたかったことを告げる。
「リノアさん、最近頻繁にバラムの街で男と会っているんですよ。うちの生徒が、何人も見てます。この間なんか真昼間のバラムホテルから出てきて、男の人と嬉しそうにホテル前で別れていたんだそうです」
そう告げた女生徒達は明らかに楽しんでいる。どうやら「スコールとリノアが別れれば嬉しい派」の女生徒達らしい。
「そうか。で、話はそれだけか?」
顔色も変えずに平然と言ったスコールに、女生徒達は笑いをおさめる。彼女達が期待していたのとは違う反応だったからだ。
「それだけなら、俺はもう行くぞ」
意外そうに顔を見合わせる女生徒達に背を向け、スコールはさっさとその場を後にした。
だが、廊下を歩きながらスコールは内心、平静ではいられなかった。明らかに自分が動揺することを期待している連中の前でわざわざ思惑に乗ってやるほどスコールは単純ではなかっただけのことだ。
(リノアが男と一緒だったって…?どういうことだ…?)
スコールには思い当たることがあった。最近のリノアの様子がおかしいことには彼も気づいていたのだ。ガーデンの図書室に閉じこもりっぱなしかと思えば、いつの間にかバラムの街へ一人で繰り出すし、帰ってくれば、部屋に閉じこもる。最近ではあまり部屋にも来ない。スコールがちょっかいを出すと、「やめてよ、疲れてるの」と追い払って、先に眠ってしまう。どうしたのだろう、と思いつつ、スコールも忙しさに追われ、ついつい考えるのを止めてしまっていた。

にわかに不安になる。別に浮気を疑ったからではない。鈍いスコールにさえ難なく見破れるわかりやすいリノアのこと「それはない」と断言出来る。断言できるが、何分リノアはスコールとは違った意味で世間知らずなところがあるのだ。「騙されて」の可能性は十分にあるのだった。
(妙なことに巻き込まれていなきゃいいんだが…)
スコールが心配したのはそれだった。

その日、仕事を終えたスコールはリノアに聞こうと思い、リノアの部屋を訪ねることになる。だが、訪ね人は消灯時間前だというのに既に眠りの中にいた。結局、スコールはその日聞くのを諦めざるを得なかった。

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文責:楠 尚巳