本文へジャンプ | FF8

分岐点

4

「おまたせ…しました…」
仕事を終え、着替えて出てきたリノアは、待っていたスコールに消え入りそうな声でそう言った。まるでいたずらが見つかってしまい、しょんぼりしている子供のようだった。

「じゃあ、帰るか。いい機会だ。話はガーデンに帰ってから聞こう」
車に乗り込もうとするスコールをリノアは慌てて止めた。
「待ってよ!スコール。理由を聞くのなら…ガーデンで話すのは嫌」
「どうして?」
スコールは、ドアを開く手を止め、意外そうに聞く。リノアはうつむく。
「だって、誰かに聞かれたら、困るもん。知られたくないの」
スコールはしばらく無言で考え込む。ややあって、
「わかった、それじゃガーデンに帰るのはよそう。海岸へ行くか?」
リノアは頷き、二人は海岸へ向って歩き出す。近いから車でいくまでもない。
夏も終り、海岸は人影もまばらだ。砂浜に並んで腰を下ろした。
「いつから気づいてたの?」
「…出掛けているのに、気づいたのは1ヶ月前からだが…何をしているのかは今日知った」
スコールの言葉にリノアは頬を膨らます。
「ほとんど最初っからじゃない…」
スコールは肩をすくめ話題を変えた。
「で、なんでバイトしてること知られたくないんだ?内緒にするようなことでもないだろ?」
リノアは膝小僧を抱える。
「笑わない?」
「ああ、笑わない」
言わせるつもりで言ってるな、と思いつつスコールは真面目に答える。
「あのね、大学受験資格とって、大学に行きたいんだ…」
小さく呟いたリノアにスコールは危うく声を上げそうになった。
「やっぱり、笑った!いま、笑いそうになったでしょ!何言ってんだ、こいつは、って思ったでしょ!どーせ、スコールから見たら、平凡すぎることだもん!基準が違うもん!全然たいしたことないもん!」
ガーデン一の優等生、伝説のSeeDとして世界を舞台に活躍している彼氏に対して、少しばかりコンプレックスがあるらしい。
「い、いや思わない。思うわけないだろ。ただ、驚いただけだ」
スコールは大きく息を吸う。
「だが、なんで突然…」
「前から考えてたの。私魔女の力コントロール出来るようになったでしょ?それから…」
訓練の甲斐があって数ヶ月前、リノアは魔女の力をコントロール出来るようになった。
リノアはここ2年間ずっとそれを目標にしてきたのだ。そして達成してしまうと、これからのことを考える余裕が生まれてきた。
「私だって何かしたい…と思ったの。でもスコールやイデアさんのような生き方は私には向いていないもん。でね、私一体なにがしたいんだろう?って思ったんだ。そう考えたらさ…やっぱり国の…みんなの役に立つことが、できたらいいなぁ、って思うのね」
そう言ったリノアに、スコールはそうだろうな、と思う。戦士になるにはリノアは優しすぎる。そして、イデアの静かな、それでいて芯の通った強い生き方も、同じ優しさ・強さでもリノアとは対照的のように思われた。
それにリノアは小さい頃から国単位で物を見る環境で育ってきた人間だ。国に関わることがしたいと思うのも納得できる。まぁ、もっともリノアは魔女であるから、既に国に関わるどころか世界にとって無視できない存在になっているのだが。
「でも、すっごく勉強しなきゃ役になんて立てないじゃない?それに、そういった事ってさ、お仕事するのも、大卒が条件ってたいてい付いてるでしょ?」
「確かに」
学校があれば多少なりとも学歴社会になるものだ。毎年、ガーデン生が卒業後、軍や警備会社にわりと簡単に採用されるのは、ガーデンの教育水準の高さが認められているからだ。SeeDであれば、即戦力として士官学校卒業生と同じ待遇が約束されてもいる。
「それで、勉強しに大学行きたいなって思ったの。だって私、ハイスクールも卒業していないんだよ?すっごく、心もとなくって。これじゃ、自分の思っていることの半分も出来ないもの」
「…それで、図書館とバラムの街をいったり来たりしているわけか…勉強と学費稼ぎのために?」
リノアはこくり、頷いた。
「なんで言わない?隠すようなことじゃないだろ?」
「だって、みんな優しいもん。キスティスだってセルフィだって忙しいのに、私がこんなこと言い出したら、協力するって言い出すよ?合格まで面倒みてくれるって言い出すよ?結局、又皆に負担かけちゃうじゃない…魔女の力コントロール出来るまでさんざん心配させて、出来たら出来たでこれだもん」
言えないよ―――リノアは落ち込んでしまった。
「あのな…リノア。俺にしてもそうだが…キスティス達にしても、別に優しい、ってわけじゃない。みんな好きでやっているだけだと思うぞ」
リノアで遊んでいる、とはさすがに言えないスコールだった。スコールとキスティスを除き、他の連中はガーデン内で訓練以外これといってすることがなく、依頼のない日は退屈極まりない。セルフィだったら、嬉々として「リノア合格まで応援する会」でも発足させるんじゃないか―――とまで想像してしまうスコールだった。

リノアは無言だった。スコールは立ち上がり、砂を払う。
「ガーデンへ帰ろう。もうじき門限だからな。帰らないとまずい。それに…渡したいものがある」
スコールはリノアに手を差し伸べてくる。話が途中で中断されたようで気まずい思いを抱きながらもリノアはその手を取って立ち上がった。

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文責:楠 尚巳