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月の恵み

1

「私、もう疲れちゃった」
怒ったようにリノアは言い、そのまま座り込み動かなくなった。
アルティミシアを倒し世界を救う旅の途中、スコール達一行は、さきほどからトラビア渓谷のまわりをぐるぐると当てもなく歩きっぱなしなのだ。
あたりは薄暗く、空には月が昇っている。
「そうだな……もう休むか」
気づいたように言ったスコールに、仲間達はほっとした。
まったくこの男は、気遣いが足りなさすぎる。
いつでも自分を基準にして動くのだ。
だが彼らは傭兵であり、スコールが班長である以上、休みたいとは言えない。
それだけに言ってくれたリノアに、全員心から感謝した。
彼らがリノアにはかなわないと思うのは、こういう時だ。
特にスコールが相手である時は。

野営の準備をし、パチパチと音を立てるたき火を囲みながら、やがて彼らがトラビア渓谷を巡っていた理由———ルブルムドラゴンの話になった。
「今日一日で、たくさん狩ったわね」
キスティスが、大きく背伸びし、深呼吸をした。
「君のおかげでね〜」
アーヴァインがまぜっかえす。
ルブルムドラゴンは、キスティスの特殊技、デジョネーターにとても弱い。発動と同時に、ほぼ間違いなく、次元の彼方へと消えていく。

それを知ってからというもの、ルブルムドラゴンは、彼らの最終目標のために欠かせないモンスターになった。
なんといってもルブルムドラゴンは、ファイガ、フレア、メテオがドローでき、さらに最強武器の改造にかかせない闘気のかけら、エネルギー結晶体、星々のかけらを落とす。そしてそれらのアイテムからは、オーラ、アルテマ、メテオが精製でき、なおかつ「倒しやすい」となれば、彼らの能力を最大限に高めてくれる貴重なモンスターになるのも当然だった。
「お宝モンスターなのに、よく絶滅しないよね」
月が落とすからかな———リノアが興味深そうに月を見上げた。
普通、人間の欲望にさらされた生物は、人間が欲望を自制しない限り、あっという間に狩られて絶滅する。
だが、月が産み落とし、世界とは別の理(ことわり)の中で生死を繰り返すモンスターにはそれがない。

「私はこの旅で、私たちの世界はモンスターがいなくなると困ることになるって実感したわ」
私たちの世界の素材はモンスターに頼りっぱなしじゃないの———キスティスの言葉に一同、納得する。

「……月の涙か」
スコールが月を見上げた。
本能的に人を襲い、人々の生活を脅かす忌まわしいモンスター。
今までモンスターが恵みとは考えたこともなかったが。

月は、もしかして……

「良いこと……なのかなぁ」
リノアがぼつりとつぶやいた。
「かもな」
少なくとも、月はそのつもりで涙を流し、モンスターを産んでいるのかもしれない。

世のために懸命に産もうと流す苦しみの涙———そう考えた途端、これまで不幸で忌まわしかっただけの活動が、なんだか愛おしいものに思えてくるのだから不思議だ。

今、彼らが渓谷から見上げる月は、相変わらず静かにまぶしいほどの輝きを放つばかりだ。

「あ〜、俺はもう寝るぜ」
これ以上考えても仕方がないといわんばかりにゼルが横になった。
「だね〜狩りは明日もあるし」
セルフィがあくびをしつつ、
「ねぇ、はんちょ、リノアを抱えて寝る?場所変わろうか?」
リノアを指さし、大まじめに聞いてきた。
その言葉に、寝かかっていたゼルさえ飛び起きて、スコールがなんと答えるのか固唾(かたず)をのんで見守った。
実は皆、宇宙で何があったのか、ふたりに聞きたくてたまらなかったのだ。

「……冗談じゃない…するわけないだろう」
スコールは脱力し、リノアは顔を赤くした。
まだそんな仲じゃない。キスだってしたことないのに。
「意外と純情ね。ラグナロクでとっくに経験済みかと思ったわ」
研究所であんなに派手に抱き合うから———キスティスが冷静に分析する。
「だよね〜」
「君、二人きりだったのに何をやっていたのさ」
「馬鹿じゃねぇの」
「おまえら……!さっさと寝ろ……!」
スコールの怒鳴り声に、みな大笑いした。

変わりつつある、なにもかも。
目に映る世界の姿も、仲間たちの心も自分の心も。
それは成長と呼ぶものなのかもしれない。

願わくば、今日より明日の世界がもっと愛おしく思えたらいい、と。

そう思いながら、六人が眠りについた夜のことだった。

- 終 -

【あとがき】

FF8のシステムに、ストーリー的な意図があったわけではないと理解していますが、こういう解釈もできるかと書いてみました。FF8は、なにもかも無料でモンスターから取り放題なのがすごいです。おかげでギルは貯まりっぱなし。SeeDは簡単に家が買えそうですね。

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文責:楠 尚巳 [2012年4月15日]